第171回 差し押さえられない資産

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第171回「差し押さえられない資産」


安田

私も入ってます。企業型確定拠出年金。

久野

もうちょっとで2年ですね。

安田

もっと早く入っときゃよかったです。非課税で会社からお金を出せるってすごいです。

久野

ちょっと誤解を生みそうな言い方ですけど(笑)

安田

違いますか(笑)どう言えばいいんでしょう。

久野

税金や社会保険が控除される前のお金で「老後の資金を積み立てる」ってことですね。

安田

でも受け取るときには税金がかからないわけでしょ?

久野

退職所得控除があるので極めて税金が安いということです。

安田

一応税金はかかるんですか。

久野

出口のところでかかります。

安田

それは何%ぐらい?

久野

今の安田さんの状況だと実効税率5%ぐらい。運用でめちゃくちゃ増えてたら話は別ですけど。

安田

納税額はどうやって決まるんですか。

久野

退職所得控除という無税の枠があるんです。それがすっごく大きいんですよ。

安田

へえ〜。

久野

最初の20年は毎年40万円ずつ無税枠が広がっていきます。だから20年間で800万。つまり20年勤めた人は800万の退職金が無税でもらえます。

安田

21年目以降はどうなるんですか。

久野

21年目から70万ずつ積み上がっていきます。そうなってくると、ほとんど税金がかからない。

安田

すごい。やっぱり早くやったほうが得ですね。

久野

それは間違いないです。私は新卒の時からやってます。

安田

私の場合は55歳から始めたので、これ何歳まで出来るんですか?

久野

安田さんは65歳までの設定ですね。

安田

じゃあ65歳で受け取れる?

久野

65歳から受け取りができます。それを70歳に変更することも可能になりました。

安田

受け取り時期を延ばすメリットってあるんですか。

久野

5年分さらに運用を続けることができます。

安田

お金に余裕があればそういう方法もあると。

久野

分割で受け取ることもできます。20年分割とか。

安田

20年分割?

久野

たとえば1年目は受け取って、残り19年分また運用するとか。正直、分割でもらった方がいいと思います。

安田

それはどうして?

久野

運用しながら受け取っていった方が資産寿命が延びるので。今の長生き時代には合ってると思います。

安田

なるほど。ちなみにその先延ばしは何歳まで出来るんですか。

久野

今だと、新しい制度で75歳まで。

安田

75まで!支払いは65までですよね。

久野

積み立ては70歳までできます。伸びました。

安田

へー、すごく伸びましたね。

久野

おそらく年金もどこかで70歳に伸びる。そういう意図があるんでしょうね。

安田

それでも困らないように?

久野

そう。まずこっちを固めてから徐々に年金支払いを伸ばしてくスタイル。

安田

恐ろしい。ちなみに私の契約も変更できるんですか?70歳までは貯め続けることができるように。

久野

できます。安田さんも70まで貯めた方がいいでしょうね。

安田

ということはあと13年はいけると。合計15年になるわけですね。

久野

はい。15年は大きいですよ。15年×66万円ですから。

安田

1000万円に近くなりますね。税率は5%なんでしょうか。

久野

ちょっと計算してみましょうか。

安田

運用して増えた分で税金が賄えるぐらいでしょうか。

久野

いや、もっと受け取れると思います。そんなに税金かからないです。

安田

なんと!

久野

66万円×15で990万になりますと。仮に運用で一切増えなかったとすると、手取りが960万5453円ですね。

安田

おお!ほとんど税金かかってないですね。

久野

ほとんど変わらないです。

安田

じゃあ、もし運用して増えてたら、元の金額より増えますよね。

久野

それは増えますね。

安田

すごい!

久野

15年だったら倍ぐらいになります。

安田

いくらなんでも倍はないでしょう(笑)

久野

年5%の複利ってすごいんです。

安田

5%は確定なんですか?

久野

ドルコスト平均法というのがありまして。毎月定額で5万5000円ずつ投資していく。平均の相場が上がっていれば増えるという法則です。

安田

減ることもありますよね?

久野

もちろん。でも基本的に世界経済が伸びてますから。増える可能性が高いと私は思っています。保障はできませんが。

安田

5%も増えるって相当リスクが高い投資に見えますけど。

久野

安田さん、それは日本の常識に毒されてます。金利0.1%以下なんて日本だけです。世界経済はこの数十年間伸び続けてますから。

安田

なるほど。つまり15年前と同じ金額ってことは、実質減ってるのと同じだと。

久野

その通りです。日本人は貯金が好きですけど、実質減ってることに気付いてない。

安田

私も気付いてませんでした。ちなみに確定拠出年金をやらない経営者さんは、存在を知らないんでしょうか。

久野

知っててもやらない人が多いです。手数料を払うのが嫌とか。あとは「ちょっとよく分からないからやめておこう」というケースもあります。

安田

もったいない。老後資金という点で考えれば普通よりも節税になるのに。

久野

そうなんです。

安田

ちなみにこれって途中で死んだらどうなるんですか。

久野

家族に支払われます。お亡くなりになったときに相続財産として。借入がある経営者は「差し押さえ資産にならない」というメリットもあります。

安田

え!私みたいに自己破産したらさすがに無くなりますよね?

久野

いえ。これが無くならないんです。差し押さえられない。

安田

なんと!早く教えてほしかった。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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