2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第250回「なぜ若者はマグロ漁船に乗るのか」
いま遠洋漁業の漁師になりたい若者が増えているそうです。
なりたいわけじゃないでしょう。
記事には「新卒にも人気がある」って書いてました。新卒の集まり具合が昨年より4割アップしてるって。
もう「ナニワ金融道」の世界ですよ。
どういう意味ですか?
単純に20代が貧乏だってこと。高校を卒業した18歳から20代前半の貧困の問題ですよ、これは。
貧困問題なんですか?これって。
「学費が出せない」という家庭がものすごく増えている。それを解決するには、「稼ぐ仕事をしたい」というニーズが当然出るじゃないですか。
自分で学費を稼ぐってことですか?
親に稼いでほしいんだけど、「ごめんな、うちそんな余裕ないんだよ」「悪いけど高校出たら働いてくれ」と。でも自分は大学行きたいなと思ったら、自分でやるしかない。
なるほど。
そこに、すごくいい“金融機関”が待ち構えていて。それがJASSO(日本学生支援機構)という名のサラ金というか国の金融屋なんですけど。
いわゆる貸付型の奨学金ですよね。
そう。みんなここで奨学金を借りるわけです。そしてこれがずっと複利で回っていく。
社会人になってからも、なかなか返せないって聞きます。
返せない。金利もあるから。
返さなくていい奨学金はどうですか。もらうのが難しい?
給付奨学金って、家計年収が300万台以下でないと下りないんですよ。ほとんどの家庭はこれを上回っちゃうので借りるしかない。
家計年収300万円台で大学に行かせるって、かなりキツイですよ。
だから、みんな借りちゃうわけです。額も大きいんだけど国の機関だから借りれてしまう。
あれはもはや「奨学金」とは言わないほうがいいですよ。
あれは学生ローンです。
ローンですよね。金利もけっこう高いし。
高い。しかも複利で。
記事によると確かに「奨学金を返すため」という人が多いそうです。だけど奨学金を返したあとも意外と続けているらしくて。
いやあ、少ないと思いますよ。
船の中が快適だそうで。漁をするとき以外は人とあまり話をしなくてもいいし、テレビやゲーム機もあって好きなことができるって。
とはいえ遠洋漁船ってきつい部分もあるから。定着率は言っているほどバラ色じゃないと思う。
やっぱり目的はお金ですか。
1年間我慢すれば400~500万貯められる仕事って、なかなか他にはないから。
1年我慢すれば4年間の学費が稼げちゃうわけですね。
そう。「それだったら耐えます」という18歳がこんなに多いってこと。日本政府はその部分をよくわかったほうがいい。
大学を卒業してから返すより先に稼いだ方が楽ですか。
そりゃそうでしょう。金利も高いし借金を背負うの嫌じゃないですか。
日本人は特に借金が嫌いですし。
18歳の高校生が400~500万、下手したら600万700万の借金を背負うって、恐怖でしかないですよ。
アメリカの大学に行ったときに驚いたんですけど。親に学費を払ってもらっている人ってほとんどいなくて。
どうやって稼いでました?
夏休みが長いので、みなさん夏休みに稼いでましたね。
州立大学でしたっけ?
そうです。
おそらく州の住民はすごく安いはずです。要するにバイトで稼げるぐらいの学費なんですよ。
確かにそうでした。
日本も30年前は国公立大学の学費って安かったじゃないですか。
受験もしなかったのでぜんぜん知らないんです。
30年前の国公立大学の初年度納付金って、いくらだったと思います?
当時だったら50〜60万ってところでしょうか。
初年度45万円です。
入学金も入れて?
入学金と施設利用料で20万。前期授業料が12万5,000円、後期授業料が12万5,000円、以上です。
ということは2年目以降は年間25万円?
おっしゃる通り。だから、みんなアルバイトして行けたんですよ。
安いですね。
私立だって初年度70万円台がほとんどだったんですよ。
今は100万超えますよね。
今は国公立でも初年度80万弱。私立だと初年度150万ぐらいします。しかも毎年上がってる。
なぜそんなに高くなったんですか。
学費スライド制といって、大学って値上げがうまいんですよ。
うまいとか言われても(笑)そもそも国公立は商売目的じゃないでしょ。
「学費を毎年スライドして上げていきます」という法律を通しちゃった。だから結局ずっと上がるんですよ。
なぜそんな法律を通したんですか。
当時は「これから物価が上がるだろう」という状況だったから。
でもそうはならなかったわけで。物価なんて何十年も上がらなかった。
だけど法律をつくって通しちゃったから。国公立はそれに則って、ずっと上げ続けるんです。途中で見直しをしなかったということです。
ひどいですね。国公立だけでも元の水準に戻せないんですか。
上げたものを下げるのは難しいんです。国公立職員の不利益変更だとか言われて。
そういう部分にこそ税金を投入すればいいのに。
私もそう思います。
人材教育って国にとっていちばん大事なところじゃないですか。
おっしゃる通り。国公立なんて「夏休みバイトすれば学費稼げる」ぐらいに下げるべきなんです。
ですよね。
それを全部「親の責任です」「義務教育じゃないから」「各家庭でやってください」というのが日本。
そこがおかしいですよね。人材を育てるのは国の役割ですよ。
税金で賄うと文句を言う人が出てくるんです。高等教育なんて自己責任だろうって。
自分で自分の首を絞めてるようなものなのに。
だから日本ではローンを借りるしかない。ローンが嫌だったら遠洋漁業。だって親にお金がないんだから。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。