第250回「なぜ若者はマグロ漁船に乗るのか」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第249回「サイバーセキュリティの壁」

 第250回「なぜ若者はマグロ漁船に乗るのか」 


安田

いま遠洋漁業の漁師になりたい若者が増えているそうです。

石塚

なりたいわけじゃないでしょう。

安田

記事には「新卒にも人気がある」って書いてました。新卒の集まり具合が昨年より4割アップしてるって。

石塚

もう「ナニワ金融道」の世界ですよ。

安田

どういう意味ですか?

石塚

単純に20代が貧乏だってこと。高校を卒業した18歳から20代前半の貧困の問題ですよ、これは。

安田

貧困問題なんですか?これって。

石塚

「学費が出せない」という家庭がものすごく増えている。それを解決するには、「稼ぐ仕事をしたい」というニーズが当然出るじゃないですか。

安田

自分で学費を稼ぐってことですか?

石塚

親に稼いでほしいんだけど、「ごめんな、うちそんな余裕ないんだよ」「悪いけど高校出たら働いてくれ」と。でも自分は大学行きたいなと思ったら、自分でやるしかない。

安田

なるほど。

石塚

そこに、すごくいい“金融機関”が待ち構えていて。それがJASSO(日本学生支援機構)という名のサラ金というか国の金融屋なんですけど。

安田

いわゆる貸付型の奨学金ですよね。

石塚

そう。みんなここで奨学金を借りるわけです。そしてこれがずっと複利で回っていく。

安田

社会人になってからも、なかなか返せないって聞きます。

石塚

返せない。金利もあるから。

安田

返さなくていい奨学金はどうですか。もらうのが難しい?

石塚

給付奨学金って、家計年収が300万台以下でないと下りないんですよ。ほとんどの家庭はこれを上回っちゃうので借りるしかない。

安田

家計年収300万円台で大学に行かせるって、かなりキツイですよ。

石塚

だから、みんな借りちゃうわけです。額も大きいんだけど国の機関だから借りれてしまう。

安田

あれはもはや「奨学金」とは言わないほうがいいですよ。

石塚

あれは学生ローンです。

安田

ローンですよね。金利もけっこう高いし。

石塚

高い。しかも複利で。

安田

記事によると確かに「奨学金を返すため」という人が多いそうです。だけど奨学金を返したあとも意外と続けているらしくて。

石塚

いやあ、少ないと思いますよ。

安田

船の中が快適だそうで。漁をするとき以外は人とあまり話をしなくてもいいし、テレビやゲーム機もあって好きなことができるって。

石塚

とはいえ遠洋漁船ってきつい部分もあるから。定着率は言っているほどバラ色じゃないと思う。

安田

やっぱり目的はお金ですか。

石塚

1年間我慢すれば400~500万貯められる仕事って、なかなか他にはないから。

安田

1年我慢すれば4年間の学費が稼げちゃうわけですね。

石塚

そう。「それだったら耐えます」という18歳がこんなに多いってこと。日本政府はその部分をよくわかったほうがいい。

安田

大学を卒業してから返すより先に稼いだ方が楽ですか。

石塚

そりゃそうでしょう。金利も高いし借金を背負うの嫌じゃないですか。

安田

日本人は特に借金が嫌いですし。

石塚

18歳の高校生が400~500万、下手したら600万700万の借金を背負うって、恐怖でしかないですよ。

安田

アメリカの大学に行ったときに驚いたんですけど。親に学費を払ってもらっている人ってほとんどいなくて。

石塚

どうやって稼いでました?

安田

夏休みが長いので、みなさん夏休みに稼いでましたね。

石塚

州立大学でしたっけ?

安田

そうです。

石塚

おそらく州の住民はすごく安いはずです。要するにバイトで稼げるぐらいの学費なんですよ。

安田

確かにそうでした。

石塚

日本も30年前は国公立大学の学費って安かったじゃないですか。

安田

受験もしなかったのでぜんぜん知らないんです。

石塚

30年前の国公立大学の初年度納付金って、いくらだったと思います?

安田

当時だったら50〜60万ってところでしょうか。

石塚

初年度45万円です。

安田

入学金も入れて?

石塚

入学金と施設利用料で20万。前期授業料が12万5,000円、後期授業料が12万5,000円、以上です。

安田

ということは2年目以降は年間25万円?

石塚

おっしゃる通り。だから、みんなアルバイトして行けたんですよ。

安田

安いですね。

石塚

私立だって初年度70万円台がほとんどだったんですよ。

安田

今は100万超えますよね。

石塚

今は国公立でも初年度80万弱。私立だと初年度150万ぐらいします。しかも毎年上がってる。

安田

なぜそんなに高くなったんですか。

石塚

学費スライド制といって、大学って値上げがうまいんですよ。

安田

うまいとか言われても(笑)そもそも国公立は商売目的じゃないでしょ。

石塚

「学費を毎年スライドして上げていきます」という法律を通しちゃった。だから結局ずっと上がるんですよ。

安田

なぜそんな法律を通したんですか。

石塚

当時は「これから物価が上がるだろう」という状況だったから。

安田

でもそうはならなかったわけで。物価なんて何十年も上がらなかった。

石塚

だけど法律をつくって通しちゃったから。国公立はそれに則って、ずっと上げ続けるんです。途中で見直しをしなかったということです。

安田

ひどいですね。国公立だけでも元の水準に戻せないんですか。

石塚

上げたものを下げるのは難しいんです。国公立職員の不利益変更だとか言われて。

安田

そういう部分にこそ税金を投入すればいいのに。

石塚

私もそう思います。

安田

人材教育って国にとっていちばん大事なところじゃないですか。

石塚

おっしゃる通り。国公立なんて「夏休みバイトすれば学費稼げる」ぐらいに下げるべきなんです。

安田

ですよね。

石塚

それを全部「親の責任です」「義務教育じゃないから」「各家庭でやってください」というのが日本。

安田

そこがおかしいですよね。人材を育てるのは国の役割ですよ。

石塚

税金で賄うと文句を言う人が出てくるんです。高等教育なんて自己責任だろうって。

安田

自分で自分の首を絞めてるようなものなのに。

石塚

だから日本ではローンを借りるしかない。ローンが嫌だったら遠洋漁業。だって親にお金がないんだから。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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