第270回「ストの裏側はこんな駆け引き」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第269回「ビッグモーターの最終章」

 第270回「ストの裏側はこんな駆け引き」 


安田

セブン&アイホールディングスが西武百貨店の売却で900億円も放棄するって。タダみたいな値段で売るそうです。

石塚

要するに百貨店事業の活かし方やシナジーの作り方を、セブン&アイの経営陣は失敗しちゃったってことですよ。もっとやれることがあったと思うけど、できなかった。

安田

やりようによっては百貨店事業もまだまだ収益を出せたと。

石塚

たとえば三越伊勢丹って非常に高収益ですよね。つまり百貨店業態だからダメってことではなく、やり方が下手くそだっただけ。

安田

どこが下手だったんでしょう。

石塚

三越伊勢丹で1番の収益パーセンテージを占めてるものって、何だと思います? 

安田

やっぱりデパ地下じゃないですか。私はそこしかいきません(笑)

石塚

デパ地下は確かに楽しいし美味しいんだけど。利益率は大体1%です。

安田

そんなに少ないんですか。

石塚

はい。それじゃあ儲からない。

安田

ということはテナント料でしょうか。

石塚

さすがですね。それが2番目です。

安田

2番目ですか。

石塚

はい。2番目は不動産賃貸テナント事業です。第1位は何だと思いますか?

安田

何でしょう。じつは不動産ビジネスで儲けてるとか。

石塚

確かに百貨店はいいところあるけど。まあ物件は限られているので。第1位は金融事業なんですよ。

安田

金融事業?

石塚

三越伊勢丹の収益の柱はリボ払いやキャッシングの利息です。

安田

え!そうなんですか。

石塚

クレジットカード事業をバリバリにやってまして。そこからの手数料、利払いが1番の収益です。

安田

手数料ってそんなに儲かるんですか。

石塚

このモデルはすごいですよ。顧客に自社のカードを持たせて、「ちょっと高いんだけど分割なら買える」という状況を常に作り出して、金利と手数料で儲ける。

安田

西武百貨店もやればいいのに。

石塚

西武百貨店にもセゾンカードってのがあるんですけど力がない。金融事業にもっと力入れていれば西武もやりようがあったと思うけど。

安田

M&Aに反対してストがあったじゃないですか。

石塚

はい。

安田

あれは売られることに反対しているわけですよね?1日だけで終わっちゃって何のためなのかよく分からないんですけど。

石塚

アピールですよ。

安田

「俺たちは反対してるぞ」っていうアピールですか。

石塚

そうです。「納得してないぞ」ってことを世間に示したい。世間も「かわいそうだ」ってなるじゃないですか。

安田

つまり同情を買うため?

石塚

雇用の維持ですよ。西武百貨店って割といい給料なので。販売職なんて都内トップクラス。

安田

そうなんですか!

石塚

はい。それを守りたい。

安田

「俺たちの報酬を下げたりしたら世の中が黙ってないぞ」っていう。

石塚

そういうことです。あのストが効いてセブン&アイは300億値引きしちゃうんです。値引きしますからぜひ雇用の維持お願いしますって。

安田

じゃあストは成功だったと。

石塚

いや。300億あったら1人に3300万円渡せたわけです。「全員3300万もらって一旦リセットしないか」ってやったほうが良かったと思う。

安田

買い取った会社は報酬を維持しませんか?

石塚

雇用は維持するけど報酬は巧みに下げていくでしょうね。不利益変更を訴えられないようにまず職場を動かす。新しい評価制度も入れて活躍できてない人は徐々に下げていく。

安田

リストラまではしないと。

石塚

いや、自然減を狙いつつ、いずれ希望退職の募集が始まるでしょう。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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