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高橋 健三(たかはし けんぞう)
・1960年 大阪生まれ
・1982年 大学卒業後、大阪市内の印刷会社へ就職
・1985年 船場の広告代理店へ転職
・1991年 友人と共に企画会社キッズ・コーポレーション設立し取締役に就任
NTT、松下電器(現パナソニック)、コカ・コーラなど大手企業を数多く開拓し、取締役就任12年間で売上高10億円を達成
・2003年 スマイルマーケティング設立し代表取締役に就任
そのビジネスは美しいのか?
「真善美」という軸を大事にしてらっしゃいますよね?
その昔、京都大学に西田幾多郎という哲学の先生がいまして。この方は「善の研究」で有名な研究者ですが、興味を持って学んでいる中で「真善美」とは、「真」イコール「善」イコール「美」であることを知りました。
真=善=美?
はい。たとえば最近、大企業でよくデータ偽装が起きるじゃないですか。これって真の反対の疑ですよね。
多いですよね。
あれって、「これをやったらいけない」というのが分かっているはずなんです。けれど「真ではないけれども、会社の業績としては善だ」と思ってやってる。
自分なりに良かれと思って。
そう。だけどその段階で「真」イコール「善」ではなくなっているわけですよ。
ああ、なるほど。
結局は、あとでバレて会社の信用を失うことになっていますよね。
「美」に関してはどうなんですか。
数年前から、自動車メーカーのマツダが「美しく走る。」というキャッチフレーズを出しているんですけど。
ほほう。
背景にある文章をよく読むと「私たちは自分たちの美意識に寄り添って車を開発します」「万人に受ける車はつくれません。私たちの美学に共感してくれた人はマツダに乗ってほしい」というメッセージになっています。
マツダってそんな車でしたっけ。レンタカーで借りたことがありますけど「真善美」って感じじゃなかったです(笑)
これはあくまで「美」の打ち出しとしての例ですが、このメッセージのウラにはきっと「真」と「善」もあるはずなんですよ。他にも、大阪の帝塚山に福壽堂秀信という和菓子屋さんがありまして。
有名なところがありますよね。
そこのパンフレットには「真善美」と書いてあって、そこには「真なるおいしさ、善なるあきない、美なるかたち」を大切にしていると。
へえ〜。
和菓子って茶道の中でも使うので、季節を感じさせる色合いとか形とか、ぱっと見がけっこう大事なんですね。
和菓子は美しいですよね。
そうなんですけど、美味しくなかったら良くないし、「売れるから」といって想定以上に高い値段を付けるのもおかしい。だから「真なるおいしさ、善なるあきない、美なるかたち」。
なるほど。
真善美をとてもわかりやすく表した和菓子屋さんのキャッチフレーズだなと思います。
髙橋さんは「真善美という軸で、自分のビジネスを見てみよう」とおっしゃってますよね。
すごく大事だと思ってます。よく流行りものに乗る人が多いじゃないですか。「タピオカミルクティー屋をやったら儲かるで」とか。
多いですね(笑)
「それって真なんですか?」って言われたら、ちょっと違うかもと。
美でもないですよね。ビジネスとして美しくないというか。
先ずは主観として、「真にあなたのやりたい商売なんですか、それは」っていうことが大事なんです。
「自分の心がハッピーかどうか」ってことですか。
そうですね。自分の気持ちに素直に沿っているかですね。
なるほど。「善」はどういうふうに見極めたらいいんですか?これは誰にとっての善なんですか?
善は、船場商人がよく「三方よし」って言ってますよね。売り手よし、買い手よし、世間よし。
はい。有名なフレーズです。
善というのは商いの態度・スタイルだと思ってまして。たとえばブームのときに1個2,000円で買えるたまごっちを2万円で売ったりする転売ヤーっているじゃないですか。
ひんしゅくを浴びてますよね。何が悪いんだって開き直って。
自分の儲けのためだけに不当な価格をつけて。そういうのは商人としては「善」ではないと思います。
「そういうビジネスをやっても長続きしないよ」ってことですか。結果的に儲からないというか。
船場商人が大切にしている暖簾に傷がつきますよね。つまり信用をなくしますよね。
でも転売する人って、「これが善じゃなくても、真じゃなくても、結果的に儲かったらいいんだろ」って思ってるでしょう。
思ってるんでしょうね。だけど善じゃないから絶対に長続きはしない。
無理やり時間を取らせる営業マンとかはどうですか?「いらない」と言っているのにしつこく「5分だけお話しさせてください」みたいな。
それはべつに悪いことをしているわけではないので。大きな心で受け止められるといいですよね(笑)
悪くはないですけど迷惑ですよ。
善悪に関しては、ちゃんと日本の法律というのがありますから。人を騙すとか、人のものを盗るとか、人を殴るとか、そういうのはもちろんダメ。
それはもちろんダメでしょうけど。たとえば先ほどの転売も違法ではないですよね。安く仕入れて高く売るって普通の商いとも言えるし。
はい。だからそこに「美」が出てくるわけですよ。
ほほう。
美学とか美意識というのは自分が決めることじゃない。まわりが「立ち居振る舞いが美しいね」とか「あの人の生き方は美しいね」とか感じること。
周りが決めるんですか。
はい。それは品性とか品格というものにも繋がるかもしれません。
品性や品格に欠ける経営者って多いですよ(笑)
だから長期的には儲からなくなっていくんじゃないでしょうか。真偽、善悪に加えて、美醜という軸がとても大事だと思います。
たとえば先ほどの営業も、商品のよさが伝わっていなくて「なんとかこのよさを伝えたい」ということで「時間をください」と言うのなら、美談かもしれない。
そうかもしませんね。
価値のないものを「売ってこい!」って言われて、無理やり売りにいくのは、あまり美しくないですよね。
そういう営業を繰り返していくと、どんどん信用を失って、そのうち誰も話を聞いてくれなくなりますよね。
でも「真」「善」と違って「美」というのは、なかなか判断するのが難しいですよ。
そうなんです。
まず自分の美意識を磨かないといけないですよね。
残念ながら真偽や善悪に比べて、美醜には明確な判断軸がないんです。
ないんですか。
ないからこそ自分で磨かないといけない。たとえば美の研究をしていた柳宗悦が最後にたどり着いたのは「存在そのものの美しさ」でした。
存在そのものの美しさ?
そうそこに在るだけで美しいという考え方。また岡本太郎は「5~6歳のころに描いた絵がいちばんうまい」と言ってます。
それは意図して描いていないという意味で?
そうです。そこにはなんの私利もないというか。
5〜6歳の感覚を持ち続けるって至難の業ですよ。美意識を鍛える方法ってないんですか。
「これ」というのはないと思います。自分でも試行錯誤の毎日です(笑)
美術館に通いつめるとか。
「美」は意識も含めているので、見た目だけではないんですよ。どちらにしても自分ではなく周りが決めるというところがポイントですね。
なるほど。
真善美は難しい。だからこそ逆におもしろいし奥が深い。これからの時代に改めて必要な考え方だと思います。
> 第4回「 新事業を編み出す4つのステップ 」へ続く