時間をお金に変える、
という言葉から多くの人がイメージするのは、時給である。
だが時間を時給に変えているだけでは、収入は増えていかない。
収入を増やすために不可欠なのは、
時給そのものを上げる工夫である。
では、どうやったら、時給は上がっていくのか。
たとえばルノアールという喫茶店には、
水出しアイスコーヒーなるメニューが存在する。
水出しアイスコーヒーは
通常のコーヒーよりも50円ほど高いのだが、
香ばしくてとても美味しいので人気のメニューとなっている。
水出しアイスコーヒーは、
大量に挽いたコーヒー豆の上から少量の水をたらして抽出する。
少しずつ、少しずつ、水をたらすので、
抽出するのに8時間もかかる、という代物だ。
なぜ、8時間もかけて抽出したコーヒーが、
たったの50円しか高くならないのか。
それは、1杯目の抽出には8時間かかるが、
2杯目以降は時間がかからないからである。
同じ豆を使っているので、原価はもちろん同じ。
にもかかわらず、50円高い金額で売れる。
最初の8時間を投資に回すことによって、
コーヒー豆の時給アップに見事に成功しているのである。
言われてみれば簡単な工夫なのだが、
普通の人はこういう時間の使い方が出来ない。
たとえば採用においても、そうである。
普通の経営者は即戦力の人材ばかりを欲しがる。
だがそんな人材が、ぽんぽん採用出来るはずがない。
妥協して、そこそこの人材を採用し、見事に失敗し続ける。
即戦力は採用出来ない。
戦力になる人材は、自前で育てるしかない。
それは、私が20年かけて辿り着いた結論である。
素質の良い人材を新卒で採用し、5年かけて育てる。
そうすれば、自社にマッチした素晴らしい人材が出来上がる。
だが普通の経営者には、この5年が我慢出来ない。
なぜならば、時間の捉え方が間違っているからである。
人ひとり育てるのに5年もかけてられない、
と普通の経営者は考えてしまう。
だがその5年は、
水出しアイスコーヒーの、最初の8時間と同じなのである。
8時間我慢すれば、どんどんコーヒーが出て来るように、
5年我慢すれば、どんどん人材が生まれるようになる。
当たり前の話なのだが、5年間採用を続ければ、
6年目以降は毎年入社5年目の社員が手に入る。
他社で5年間経験した社員ではなく、
自社でゼロから5年間育てた社員。
これは水出しアイスコーヒーどころではない、
とんでもない付加価値なのである。
この状態を見て、競合他社が真似をしようとしても、
追いつくのに5年かかる。
5年経った時には、自社には入社10年目の経験者が
毎年手に入る仕組みが出来上がっている。
だから絶対に追いつかれない。
時間を大金に変えたいのならば、
時間の捉え方を変えなくてはならない。
一見、非効率な時間の使い方の中にこそ、
時間そのものの価値を高めるヒントが隠されているのだ。
圧倒的な無駄、圧倒的な非効率、圧倒的な遠回り。
それこそが、圧倒的な価値を生み出す、
時間の使い方なのである。
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