第3回 ケーキ屋さんを潰して、ケーキ屋さんを作った男

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第3回 ケーキ屋さんを潰して、ケーキ屋さんを作った男

安田

杉田さんは広島大学を卒業後、神戸の『ダニエル』というお店で4年間修行をされていました。退職後はすぐ実家に戻られたんですか?


スギタ

そうですね。3月までダニエルで働かせていただき、4月には広島に戻ってきてました。で、6月いっぱいで父がやっていたお店を閉めて、そこから改装工事をスタートさせて。

安田

えっ、お父さんの作ったお店、壊しちゃったってことですか?


スギタ

そうなんです(笑)。土地と厨房以外、全部イチから作り直しました。親戚一同、大反対でしたけど(笑)。

安田

そりゃそうですよ(笑)。だって、言うなれば「ケーキ屋さんを潰してケーキ屋さんを作った」わけでしょ? 同じ業態なんですから、壁紙を張り替えたり、内装をちょっといじるくらいでもいいんじゃないんですか。


スギタ

父にも同じようなことを言われましたね(笑)。「別に全部壊さないでもええじゃないか。店名を変えたり並べるお菓子を変えたりするだけじゃダメなんか?」って。今から考えれば父の言うことはもっともなんですが、当時の僕は「中途半端なリニューアルオープン」にはしたくなくて。

安田

ほぉ。それはどうしてでしょうか。


スギタ

お客様をしっかり獲得するには「まるっきり新しいお店ができた」というインパクトが必要だと思ったんです。「修行から帰ってきた息子が、ちょっとキレイに改装したお店」という程度ではダメだなと。

安田

なるほど、確かに仰る通りかもしれません。とはいえですよ? 杉田さんはその時点ではまだ「仕上げ」しかできなかったんですよね? 「仕込み」の方は全然できなかった。


スギタ

仰る通りです。

安田

その状態でお店をフル改装するなんて、なかなかのチャレンジャーというか、むしろすごいリスクだと思うんですけど(笑)。そもそも改装費用もかなりかかったでしょう?


スギタ

トータルで1800万円かかりました(笑)。

安田

すごい。家が1軒建っちゃいますよ(笑)。そんなお金、どうやって工面したんですか。


スギタ

『ダニエル』での修行時代に400万円くらい貯金していて、プラスそれを元手に借り入れをしたりして。

安田

へえ! でも奥様とかは怒らなかったですか。大事な貯金が一気になくなってしまうわけで。


スギタ

そうなんですよね。というか実はその400万円の貯金って、半分は結婚資金でもあったんですよ(笑)。それを全部突っ込む上に、妻のご両親からいただいた結婚のお祝い金も、すべてまとめて新店舗の改装費に充てて(笑)。

安田

ええ〜、笑い事じゃないですよ(笑)。そんな大変なことをしでかして、よく逃げられませんでしたね(笑)。


スギタ

いや、本当に(笑)。妻には頭が上がりません。

安田

本当ですよ(笑)。でも逆に言えば、そこまでしてでも「全く新しいお店」をオープンさせたかったということですよね。そこに自信もあったということですか。


スギタ

そうですね。根拠はないんですが、「絶対に成功するに違いない」って自信だけはありました。「こんなお店、広島にはない。だから絶対に繁盛する店になるぞ」って。

安田

なるほど。ちなみにどういうコンセプトだったんですか。


スギタ

カフェやランチなど、いろいろなシーンで利用できて、心地良い時間を過ごせるようなお店です。ケーキを買いに来るだけでなく、1人でお茶をしたりお友達と食事をしたりできるようなお店というか。

安田

う〜ん? それって、お父さんがやられていた「喫茶併設のケーキ屋さん」と何が違うんですか?


スギタ

確かに似ているんですけど、喫茶併設のお店で出すのはコーヒーとケーキセットだけなんですよね。でも僕としては、ドリンクも食事もメニューを充実させたくて。

安田

ふむ。こだわりのコーヒーや紅茶を揃えたり、ランチにパスタを出したりとか。


スギタ

そうですそうです。で、これがキラーコンテンツなんですが、ランチメニューの食後のデザートは、ショーケースの中から好きなケーキを自分で選んでもらうんです。

安田

あぁ、それは特に女性が好きそうですね!


スギタ

まさにそうなんです。実は同じことをダニエルのカフェでもやっていたんですが、これが神戸のマダムたちに大人気で。「どれを選んでもいいんですかぁ!」ってキャーキャー喜んでくださるんですよ(笑)。それで、これは絶対自分の店でもやろうと決めていました。

安田

なるほど。ダニエル時代は、そういったビジネスモデルも学ばれていたんですね。そして実際オープンされて。お客さんの反応はどうでした?


スギタ

はい、おかげさまで大盛況でした。僕の読み通り「ショーケースから好きなケーキが選べる」というのが話題になり、メディアからもたくさん取材されましたね。

安田

いやぁ、素晴らしいです。ちなみに業績はどれくらいで黒字化したんですか?


スギタ

オープンしたのが11月で、6月決算なんですが、その時点では黒字化していました。

安田

半年で黒字化ですか! すごいですね。月の売上はどれくらいでしたか?


スギタ

最初は200万円とか250万円とかだったかな。1年目2年目は年商3000万円くらいのペースで推移していました。日商にすると平均10万円程度だったと思います。

安田

ちなみにお父さんがお店をやられていた当時と比べるとどれくらいの差が? こっそり教えて下さい(笑)。


スギタ

父の時代は、毎日同じ人しか来ていなかったので(笑)、日商1万円くらいでしたかね。そう考えると10倍以上にはなりました。

安田

すごい! いやぁ、ものすごい進化ですよ。「根拠のない自信」でフル改装した甲斐がありましたね(笑)。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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