第291回 大病院は破綻寸前?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第291回「大病院は破綻寸前?」


安田

宮崎県の大崎市立病院で未払い残業代が10億円あったという。これ、衝撃ですよね。労基署に支払いを命じられたにもかかわらず2億しか払わなかった。

久野

病院の経営ってめちゃくちゃ難しくて。特に大病院が大変みたいですね。

安田

この病院も大変みたいです。曰く、払わないんじゃなくて払えないんだと。「そんな開き直りが許されるか」ってネットで叩かれてました。

久野

実際に払えないんですよ。

安田

でも市立病院ですよ。市がバックについているのに払えないって。逆に私立の方が儲けやすいんでしょうか。

久野

私立の病院も大半が赤字経営だって言われてますね。

安田

なんと。確かに医療って報酬が決められてますからね。国が決めた通りにしか取れない。保険外診療をやると「怪しい」とか言われるし。

久野

デジタル化も進んでいなくて。受付に何人も人がいてものすごく非効率なんです。

安田

待ち時間も多いし。

久野

言い方は悪いですけど、お年寄りが色々聞いてくるわけですよ。付き添って案内してると労働時間も増えるし、効率も悪くなるし。あれで稼ぐってなかなか酷じゃないかな。

安田

断るわけにもいきませんし。

久野

そうなんですよ。街のクリニックなら工夫次第で黒字になるんですけど。大きな敷地と施設を持たされて相当厳しいんじゃないかと思います。

安田

客を選ぶことは許されないし。朝から年寄りが大量に来るし。忙しくて時間外勤務も多いから人は辞めちゃうし。儲からない。

久野

大病院ほどそうなりますね。経営の余地がないというか。ちょっと気の毒すぎるなと思います。いいところだけ小さなクリニックが持っていくわけじゃないですか。自費でやる患者とか。こういう症状だけは私たちが受けますとか言って。

安田

地域の総合病院って商売抜きで必要ですからね。なくなるとみんな困るわけで。

久野

そうですね。地域を支えるインフラですからね。

安田

もっと税金投入するとか。お年寄りの個人負担をもっと増やすとか。暇な人が朝から保険診療で並んでるイメージしかないんですけど。

久野

値上げとかでしょうね、やっぱり。

安田

値上げと自己負担率のアップですよ。たぶん大崎市にもそんなに余裕はないんでしょうし。これまでと同じようにサービスを受けたいんだったら値上げするしかないです。

久野

ただ、税金を入れすぎると逆に経営が甘くなったりもします。高くても患者さんが来てくれるように真剣に考えていかないと。

安田

とはいえ勝手に値上げできないじゃないですか。

久野

できないですね。

安田

これはもう国が主導して価格を上げていくしかない。自己負担率も増やして、もうちょっと少ない患者でちゃんと病院経営が成り立つようにしてあげないと。

久野

所得に応じて負担率を変えなきゃいけないでしょうね。

安田

稼いでる人がまたいっぱい払うんですか。

久野

そう。その代わり、早く見てもらえるとか。

安田

高額納税者レーンみたいな(笑)

久野

そうそう。エクスプレスカードみたいな。

安田

レントゲンの順番もお金持ちからっていう。

久野

絶対炎上しそうだ(笑)

安田

そんなことしたら大炎上ですよ。そもそもなぜ自己負担率を増せないかというと、「お金のない人間を殺す気なのか」みたいに言われるから。政治家も人気商売だし。

久野

このまま続けると必ずどこかで破綻しますよ。大病院に勤める医者も看護師もどんどん減っていくし。やっぱりエクスプレス的なお金を取るとか。何らかの工夫しないと。

安田

金持ち優遇なんて日本では絶対に無理ですよ。大炎上します。

久野

私立の病院にはすごく高い個室があって、自費だと優先的に早く手術してくれる病院とかもあるんですよ。

安田

私立病院だからやれるんでしょうね。

久野

パブリックなところは難しいですね。

安田

今でも待たされてキレる老人がいるのに。お金持ちが横入りなんかしたら大変なことになりますよ。

久野

キレてる老人いますね。「いつまで待たせるんだ!」って。

安田

現場の人もやってられないでしょうね。ちなみにこの病院は未払い残業代が払えない状態なんですけど。これどうなるんですか。差し押さえとかになるんですか。

久野

最後は差し押さえになります。とりあえず労働基準法違反で経営トップが書類送検される可能性があります。

安田

そうなると病院自体が機能しなくなっちゃうじゃないですか。地域の人みんな困るじゃないですか。

久野

そうなんです。だから集団訴訟とかもやらないんじゃないですか。従業員と個々に合意して何十回に分けて払いますみたいな。

安田

ますます転職する人が増えちゃいますね。もっと条件のいい職場なんていくらでもあるし。

久野

医療業界って正義感の強い人が多いので、めちゃくちゃ未払い残業が多いんですよ。このまま行くと必ずどこかで破綻すると思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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