社員が会社を選ぶ時代

かつて稼ぐために資本が必要な時代があった。戦後、何もないところから富を生み出すには「まとまった資金」が不可欠だったのである。工場を建て、原材料を仕入れ、それを加工して販売する。加工貿易とは資本家が労働者を雇う図式に他ならない。雇って頂くことが稼ぐことのスタートだったのだ。

雇って頂けることに感謝する。雇ってあげることで感謝される。これが当たり前だった時代。労働人口はどんどん増えていたし、雇われる以外に稼ぐ術のない人が巷に溢れていた。募集すればいくらでも人が来る。クビにならないために一生懸命働く。現在の経営者から見たら夢のような時代だ。

しかしこのような時代はもう終わり。今は完全に立場が逆転している。労働人口はこの先も減り続けていくし、人不足で困っている会社は巷に溢れている。働こうと思えばいくらでも選択肢がある。20代30代の若くて真面目な人がいればお願いしてでも入社してもらいたい。それが経営者の本音である。

選ぶ権利は社員の側にある。この状況はこの先も変わることがない。いや益々強くなっていくだろう。「顧客の立場になって考えろ」と経営者は言うが「社員の立場になって考えろ」と彼らは思っている。顧客心理を理解することなく商売ができないように、社員心理を理解することなく経営はもうできない。

社員は会社を選んでいる。もっとはっきり言えば経営者を選んでいる。儲かるビジネスを真剣に考えている経営者と、儲からないビジネスをただ続けている経営者。社員の報酬をどんどん高めようとしている経営者と、人件費を抑えて利益を残そうとしている経営者。どちらを選ぶのか考えるまでもないだろう。

高くて質の悪い商品を買いたいと思う客がいるだろうか。ハードワークで給料が安い仕事を選びたいと思う社員がいるだろうか。熱いビジョンを語りたいなら、その前に手厚い労働条件を用意するべきだろう。自己研鑽を積んで成長して欲しいなら、その前にもっと高い報酬を支払うべきだろう。

言われたことを言われた通り真面目にやる。かつて労働者の最低条件と言われたこのスタンスは、今や称賛して感謝すべきスタンスとなりつつある。これは冗談ではない。経営者が給料以上に働いて欲しいと思うように、社員は給料以下の労働しかしたくないと考える。相手の立場になれば当然の話なのである。

 

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