地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第47回 「自律分散型組織」のつくりかた

以前、スギタさんがホノルルマラソンに行かれる時に、「あえて店長というポジションを作らず店舗運営してみる」というのを試していたじゃないですか。

ええ。既に『スギタベーカリー』の方が、店長を作らずに回っていたので、『ハーベストタイム』でもできるかなと。マラソンで一定期間店を離れることになったので、これはチャンスだと思って。

そうでしたね。私は以前から今の時代に合った「新しい採用」や「新しい組織づくり」を研究しているんですけど、その話に大きなヒントがある気がしているんです。中間管理職に憧れない若い人たちが増えている中で、「あえて管理職を置かない」というのはすごく理にかなった戦略なんじゃないかと。

うーむ、それっていわゆる「自律分散型」ってことですよね。まさに今世の中で最先端と言われる組織の形じゃないですか。それをスギタさんの会社は以前から取り入れていて、しかもうまくいっていると。素晴らしいですよ。

うーん、あらためて聞かれると、どうしてなんだろう(笑)。でもちょっと逆説的ですが、各自が自律的に動くためには、ある程度現場のオペレーションが確立されている必要があると思いますね。1から10まで個人が考えるわけじゃなく、決まった型の中で「誰がどこを担当するか」の部分だけを柔軟に変えていくというか。

ああ、なるほど。そこはすごく重要なポイントな気がします。自律分散型を実現するには、むしろ緻密なオペレーションが必要だと。つまり言い換えれば、社員さんの業務が限定的な方がうまく機能するということですね。

ええ。ただそうは言っても、現場の判断に頼る部分はどうしても出てくるわけですよ。たとえばウチの店って「部活の延長」みたいなところがあって、長くいるスタッフが新しい人に仕事を教えたり、足りない部分をカバーしたりする。そうやって臨機応変に対応してもらえるからこそ成り立っているシステムでもあって。

してくれちゃいましたね(笑)。実際以前スタッフが辞めちゃった時に、「これは僕が現場に入らないと回らないだろうな」と思って店に行ったんです。そうしたら回らないどころか、ショーケースにはいつも通り商品が並んでいて、さらに新商品まで開発されていたという(笑)。

本当です本当です(笑)。何も指示していなくても、僕のところに「食べてみてください」と持ってきてくれるんですから。…こうして話していると、現場のスタッフがすごいだけ、という気もしてきましたね(笑)。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。