第107回 中小企業は「不真面目」になるべし

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第107回 中小企業は「不真面目」になるべし

安田
私、最近よく思うんです。昔のように「仕入れた商品に利益を乗せて売る」とか「雇った人の給料プラスアルファの利益を乗せて仕事をさせる」とか、そういった単純なやり方ではもう中小企業は儲からなくなるんじゃないかなって。

鈴木
確かにそうですね。そもそも中小企業は、人の採用がどんどん難しくなっていますよね。「能力をできるだけ高く買ってくれるところ」という土俵で戦うとなると、みんな大手企業に流れていってしまう。
安田
まさに仰るとおりです。中小企業で人を集めようと思ったら、「自分の得意を活かして商品化してくれる会社」にならないといけないのかもしれません。そういう意味でも、今後ますます中小企業の経営はめちゃくちゃ難しい時代になっていくんじゃないかと思うんですが、鈴木さんはどう思われますか?

鈴木
そうですねぇ。たとえば高度成長期の頃って、モノが何もないからこそ、何が出ても欲しくなっていたじゃないですか。つまり皆が物欲があったので、どこの会社もうまくいっていた。
安田
確かに。まさに「作れば売れる」という時代でしたよね。

鈴木
そうそう。でも今は、持っていないものを探す方が難しいくらいモノが溢れている。だからこそ「ニーズ」よりも「ウォンツ」が強く求められていると思っていて。
安田
同感です。「ニーズ」という面で言えば、例えばUNIQLOさんのような大企業がガサッと市場を押さえている。そこより安くていい商品を作るのは、不可能ですよ。

鈴木
仰るとおりです。だからこそ中小企業は、規模の小さいマーケットに振り切っていく方がいいんですが。…でもそれってやっぱり、なかなか勇気がいることなんですよね。「このマーケットで本当に儲かるの?」って心配になっちゃうというか。
安田
でも実際に大きな市場にいってしまうと、価格とクオリティを両立して売らなくてはいけない。それってかなり厳しい戦いになりますよね?

鈴木
そうなんですよ。だからこそ、中小企業には「付加価値を生み出せる想像力やアイディア」が不可欠なんじゃないかと。
安田
仰るとおりですね。顕在化されていないニーズや欲求を掘り起こして商品化することで、消費者のウォンツを刺激する。それが生き残りのカギだと思います。

鈴木
そうそう。そう考えるとね、たぶん「損得」より「好き嫌い」にアプローチしたサービスや商品のほうがいい気がするんです。そっちの方が儲かるんじゃないかなぁと。
安田
なるほど。要するに感情にアプローチするってことですよね。確かにこれからの時代はそっちが重要になる気がします。

鈴木

そうですよね。恋愛と一緒で、たいしてイケメンじゃないのにやたらとモテる人って、相手の感情にアプローチするのが上手いじゃないですか(笑)。中小企業もそういう能力を身に付けなきゃダメなんです。

安田
確かに(笑)。そう考えると、中小企業の社長って真面目すぎるのかもしれないですね。「安くて質のよい商品を提供しないとお客さんには認めてもらえない」と思い込んでいる。

鈴木
そうそう。真面目一辺倒ではなく、不真面目なところも必要ですよね。安田さんもよく「本当に効率的に生きたいなら、動物のように食って寝て繁殖だけすればいい」って仰るじゃないですか。あの話、僕大好きで(笑)。酒も飲まない、美味しいものも食べない、旅行もしない、なんていう「真面目」な生き方していたら、全く消費活動は発生しないですからね。
安田
そうなんですよ。「不真面目」にお金や時間を使うのが、人間の特徴ですからね。無駄なことをするために、人間は日々頑張っているわけです(笑)。

鈴木
やっぱり好きだな、その考え方(笑)。
安田
ありがとうございます(笑)。じゃあこれからの時代を中小企業が生き抜くには、「不真面目」にアプローチしていくのが吉と出そうですね!

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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