第62回 「教育サロン」が果たすべき役割とは?

この対談について

「遊んでいるかのように働きたい」をモットーに、毎日アロハシャツ姿で働く“アロハ美容師”こと岩上巧さん。自身が経営するヘアサロン「mahaloco(マハロコ)」には、岩上さんしか実現できない<ココロオドル髪型>を求め多くのお客様が訪れます。その卓越したビジネスセンスの秘密に、ブランディングの専門家・安田佳生が迫る対談企画です。

第62回 「教育サロン」が果たすべき役割とは?

安田

この数年は毎年、美容室の倒産件数が過去最多を更新しているそうですね。やっぱり人手不足が原因なんでしょうか?


岩上

それは大いにあると思います。ただこのお話をする上で、そもそも美容師がどうやって「見習い」からデビューできるようになるのか、まずはその教育システムをお伝えする必要があると思っていて。

安田

そうか、確かに美容学校を出てすぐにお客さんの髪の毛を切れるわけではないですもんね。


岩上

そうそう。「教育サロン」と呼ばれるお店が美容学校を出た子たちを採用して、技術や接客などをイチから教えていくんです。そうやって数年かけて技術を身に付けさせて、ようやくデビューさせる。

安田

ふ〜む。ちなみにそういった教育サロンには、正社員として雇われるわけですよね? まだ一人前にもなっていない見習い美容師って、どれくらいのお給料がもらえるんですか?


岩上

最低賃金と同レベルくらいじゃないですかね。でも僕らの時…それこそ30年までは、最低賃金を大きく下回っていましたけど(笑)。就職する時に「親からの仕送りはありますよね?」って聞かれるくらいでしたから(笑)。

安田

そうなんですか! それは「技術を教えてやるんだからタダで働け」みたいなことだったんですか?


岩上

そうそう(笑)。1桁くらいの給料しかもらってなかったです。しかも毎日終電ギリギリまで働いていたので、当然、バイトもできない。なんなら終電に乗れない場合も考えて、お店の近くに住む人も多かったですけど、そもそも職場が青山や原宿といった都心なので、ものすごく家賃が高かったりして(笑)。

安田

なるほど。さすがに今はそこまでひどくはないですよね?


岩上

そうですね。少なくとも最低賃金はクリアしていますし、休みもちゃんと取れているはずです。技術の勉強会なんかも、ちゃんと労働時間内に行けると思いますし。ただそうなってくると、サロン側の運営コストがどんどん上がっていくわけですよ。

安田

あぁ、そうか。昔は技術を教える代わりに低賃金で長時間労働をさせていたけど、今は労働時間は短いし、賃金も払うし、社会保障もしっかり払わなくてはいけなくなるわけですもんね。


岩上

そうなんです。しかもそういった教育にかけるコストとは別に、集客にも莫大なお金がかかる。

安田

サロンで育てた子が、自分でお客さんを集めてくることはないんですか?


岩上

昔はそうでしたけど、今って自分である程度集客できるようになった美容師は、フリーランスになって独立してしまうことがほとんどなんですよ。

安田

え、先行投資でイチから育ててきて、ようやく会社に利益ももたらしてくれる人材になったと思ったら、独立されたり転職されたりしちゃうんですか? それじゃ教育サロンは大損じゃないですか!


岩上

そうなんですよ。だからオーナー側も独立されない仕組みを考えたりするんですけど、なかなか難しいですよね。特に今は、自分の時間を大事にしたいと考えている人が多いですし。

安田

なるほど。そういう人が増えてきて、教育サロンの経営も立ち行かなくなり、結果として倒産件数が増えている面もありそうですね。


岩上

そうなんだと思います。あとは今は意外と「カットをしたくなくて辞めていく美容師」も増えているんです。

安田

え? カットが嫌? じゃあ何のために美容師になったんですか?


岩上

僕もちょっと理解に苦しむんですけど…(笑)。要は「カット」は大きな責任を伴ってくるからやりたくない。アシスタントがやるシャンプーやカラーの塗布だけをやっていたい、と。

安田

は〜、なるほど。でもそれを言ってしまったら…という感じだなぁ。ちなみにその塗布というのもそれなりに難しいわけですか。


岩上

美容師になって初期の頃に学ぶ技術なので、ある意味、基本中の基本の作業ですね。そういう人たちって「作業」として美容の仕事をするのが好きなんです。スタイリストから言われたことだけをしっかりこなしていくというか。

安田

あぁ、なるほど。ちなみに見習いで入った美容師が一人前になるにはどれくらいの年数がかかるんですか?


岩上

1年半くらいでしょうかね。基本的にどこのサロンでも、ホットペッパーに載せているような「髪型のレシピ」があって、この髪型にするには、こうカットして、カラーはこれで…というように決まっているんです。それを一通りできるようになったら一人前と言うか。

安田

はー、そこまで細かく決まっているんですね。でもオーダー通りの髪型を作るだけの美容師はリピーターをなかなか獲得できないって仰ってましたよね。


岩上

ええ。だからウチのサロンでは技術だけではなくてコミュニケーションも徹底的に教え込む教育をしていました。極端な話、ちょっとくらい技術が未熟でも、お客様にとって「この子は応援したい」と思ってくれるような存在になれれば、必ずリピートしてくださるので。

安田

岩上さんご自身も、過去にそうやって後から技術力をつけていったって仰っていましたもんね。


岩上

そうですそうです。そうやって自分のファンになって再来してくれるお客様のために技術を磨いていくと、結果的に技術も上達するし、顧客との関係性も良くなっていくという好循環ができるんです。

安田
なるほど。岩上さんのサロンのように、単に技術だけでなくコミュニケーションまで含めて教育してくれるサロンであれば、美容師との信頼関係も築かれて、簡単に辞められていくこともなさそうですね。

岩上

ええ。そういった関係性ができたスタッフは、たとえ次のステージに行っても年に何度もウチに遊びに来てくれるんです。そういう「辞めた後も繋がっている」と感じられる関係性は、これからも大事にしていきたいですね。


対談している二人

岩上 巧(いわかみ たくみ)
アロハ美容師/頭髪改善特許技術発明者/パーソナルブランディングプロデューサー/株式会社 OHANA 代表

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美容専門学校卒業後、都内のサロンに就職するも、オーナーと価値観の違いから大喧嘩し即クビに。出身地である水戸に戻り実家の美容室で勤務しながら技術を磨き、2008年自身のヘアサロン「mahaloco(マハロコ) 」をオープン。結婚式のプロデュースやイベント企画なども行うパーソナルブランディングプロデュースサロンとして人気を博す。2014 年、髪質改善技術「美髪矯正 hauoli®(2021 年特許取得)」を開発。「まるでハワイで暮らしているように」をテーマに、毎日アロハシャツを着、家族・仲間・お客様と共にハワイアンライフを満喫中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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