第18回 成功者を叩くのは、日本特有の文化なのか

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第18回 成功者を叩くのは、日本特有の文化なのか

安田
前回は、最近の日本の若者がどんどん世界に飛び立っているというお話でした。

鈴木
ええ、そうでしたね。
安田
それにしても、昔は海外進出よりも前に、まず国内で認められる必要があった気がするんですよね。そして、日本にいる間に足を引っ張られることも多かったんじゃないかと。

鈴木
ああ、言わんとしていることはわかります。成功している人を潰そうとする「社会の圧力」みたいなものというか。
安田
そうですそうです。日本の国民性とでもいうのか。突如あらわれた起業家とか、一代で財を成したような成功者を叩く傾向がありましたよね。

鈴木
わかります。お金をたくさん持っている人や大きい家に住んでいる人に対して、「ちょっと悪いことして稼いだんじゃないの?」と思う気持ちはわからなくもない(笑)。
安田
そうなんですよ(笑)。真面目に苦労して頑張っても、普通の仕事で稼げるお金には限度があるじゃないですか。だからものすごいお金持ちを見ると、それこそ不正して得た金じゃないの? と勘ぐってしまう。

鈴木
そういう勘ぐりがやがて、成功者の足を引っ張る行為に繋がるのかもしれません。ときにはメディアも一緒になって。
安田
ええ。こういう「成功者の足を引っ張る」のは、日本人の国民性が関係しているんでしょうか? 鈴木さんはどう思われますか?

鈴木
まあ、ある種の島国根性のようなものですかね?
安田
でも、外国人の成功者に対して文句を言うことなんてないですよね? 足を引っ張る対象は常に同じ「日本人」。これも不思議といえば不思議なんですけど。

鈴木
確かに。たとえば屋外で騒いでいる外国人がいても「まあしょうがないよね」と寛容でいられるのに、日本人には「非常識なことをするな。なんでわからないんだ?」とイライラする人は多いかもしれないですね。
安田
そうなんですよ。「静かにすべき場所で騒いでいる」という行為は同じなのに、日本人に対してだけ異様に厳しい。

鈴木
タトゥーもそうじゃないですか? 外国の方がタトゥーをしていても「ふ〜ん」と思う程度だけど、それが日本人となると話は変わってくる(笑)。
安田
そういえばこの前、日本好きな外国人が般若とか仏像のタトゥーを入れているのを見ましたけど。これがもし日本人が同じ柄のタトゥーを入れていたら、完全にそっちの筋の方だって思っちゃいますよね(笑)。

鈴木
笑。だからきっと、僕らの中にある種の「固定観念」ができているんでしょうね。日本人はこうあるべきだ、という「理想の姿」のようなものが。
安田
なるほど。その「理想像」から外れていかないように、足を引っ張ると。

鈴木
足を引っ張ることの根底には「妬み」の気持ちもあるのかもしれないですね。妬みの感情って、多少なりとも自分を投影できる相手にしか発生しませんから。古くから「出る杭は打たれる」とも言われてますけど、それはやっぱり、自分と近しい誰かが出るからイライラするわけで。
安田
ああ、確かに。そして「出過ぎた杭は打たれない」とも言われていますが、実際には「出過ぎたら、もっと打たれる」ケースの方が多かったりして(笑)。

鈴木
笑。打たれている本人が、そんなの関係ないって思えるくらい強ければいいんでしょうけど。
安田
たとえ本人が気にしなかったとしても、やはりこの「足を引っ張り合う文化」はおかしいと思っていて。日本っていつからこんなに窮屈な環境になってしまったんでしょうかね。成功者ほど居心地が悪いって、普通に考えたら変ですよ。

鈴木
そう言われてみれば、昔はもっと「成功した人を尊敬して称える文化」があったようにも思います。学校の先生やお医者さんですら神様みたいに扱われた。いつ頃から変わってきたんでしょうね。やはりバブル崩壊のあたりですか?
安田
ああ、そうかもしれない。バブル崩壊から平成にかけて、ひどくなってきた気がします。

鈴木
それって、社会全体の「幸福感」がどんどん下がっていった時期と重なりませんか?
安田
確かに。全体が沈んでいく中で、「なんでおまえだけ浮いているんだ?!」と攻撃したくなる心理なのかもしれませんね。

鈴木
「幸福じゃない自分たちとは違う」つまり「お前だけ幸せになりやがって」という不満なんでしょうね。昔はある意味、みんな貧しかったですから、むしろ成功者にあやかりたいと思ったのかもしれません。
安田
ああ、そうかもしれませんね。みんな一緒に沈んでいって、みんな一緒に貧乏になっていくんだったら、別にイライラしないのかもしれない。そういうことに関しては、意外とフラストレーションの溜まらない国民なのかもしれません。

鈴木
みんなで我慢して、みんなで貧乏になっていくんですか? それはちょっと勘弁してほしいなあ(笑)。
安田
仰る通りですよ。間違った方向性での「平等意識」があるというか。どうしたらいいんでしょうかねえ。

鈴木
これはもう「階級社会だから仕方ないんだ!」と言われるほうが諦めがつくのかもしれないですね(笑)。
安田
お金を稼いでいる人は上流階級の人間なんだから、俺たちは諦めよう、ということですか(笑)。

鈴木
そうそう(笑)。
安田
それはまた斬新なアイディアですね(笑)。ともあれ、成功者の功績を社会全体で喜ぶのが当たり前な風潮になれば、日本からももっとたくさんの成功者が生まれるのではないか。私はそう思っています。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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