第327回 遺族年金はこうできている

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第327回「遺族年金はこうできている」


安田

「生保は掛け捨てで十分だ」というのが久野さんのご意見ですよね。それより社保に入った方がいいと。

久野

はい。間違いないと思います。

安田

遺族にとってもそのほうがいいってことですか?

久野

遺族年金が受け取れますから。女性の方が長生きなので「旦那さんが亡くなりました」というケースが多いんですが、そのとき奥さんが遺族年金をもらえる。

安田

遺族年金って何%ぐらいもらえるんですか?

久野

ちょっと計算が複雑なんですけど。大体の金額で言うと、旦那さんがもらっていた厚生年金の4分の3ぐらいです。

安田

結構もらえるんですね。

久野

そう。結構もらえる。

安田

年金をもらい続けるために「死体を隠す事件」があるじゃないですか。あれはなぜ?

久野

たとえば旦那さんが10万円の国民年金と8万円の厚生年金、奥さんが10万円の国民年金をもらっていたとするじゃないですか。

安田

はい。

久野

遺族年金になると厚生年金8万円の4分の3が加算されるので、結局奥さんは16万円になるんですよ。今まで2人で28万円もらえていたのが16万円になる。

安田

旦那さんの国民年金はゼロになるんですか?

久野

ゼロになります。65歳以降は遺族基礎年金というのもあるんですけど、そんなに劇的には増えないです。

安田

奥さんも厚生年金に入っていた場合はどうなるんですか?

久野

選択になります。自分の厚生年金をもらうか旦那さんの分をもらうか。

安田

つまり自分がもらっていると旦那の分はもらえなくなる。

久野

そう。自分の方が多いと思えば自分の方を選んで、旦那さんの方が多ければ旦那さんの方を選ぶ。単純にそれだけの話です。

安田

両方はもらえないんですか。

久野

両方はもらえない。

安田

そうなんですね。だから死んだことを隠したりする人がいるんですね。

久野

1人分の生活費が補えればいいと言う考えなので。それなりの金額に落ち着くんです。

安田

そもそも生活保障的な意味合いですもんね。

久野

そうなんです。2人だとそれなりの生活費が必要になるので。

安田

若い時に旦那さんが亡くなった場合はあまりもらえないと聞きました。これは本当ですか?

久野

遺族年金はもらえるんです。ただ5年間の有期年金なんですよ。

安田

それは「まだ若いから働けるでしょ。再婚できるでしょ」ってこと?

久野

「再婚しろ」って意味でしょうね。古い日本の考え方かもしれません。

安田

なるほど。そういう思想が含まれているんですね。日本の遺族年金というのは。

久野

そうなんですよ。だから遺族年金って再婚すると無くなっちゃうんです。

安田

じゃあ自分が死んだ後「妻にリッチな生活をさせてあげよう」という人は、民間の保険に入っておくしかない?

久野

はい。なので、おすすめは民間の掛け捨てと企業型拠出年金です。

安田

掛け捨ての方がいざという時には保証が大きいですからね。長生きすると何も残らなくなりますけど。

久野

そうなんですよ。だから積み立て部分は企業型拠出年金で貯めていく。

安田

なるほどなるほど。

久野

掛け捨ての保険って安いじゃないですか。3000万とか保証をつけたとしても1万円くらい。これを終身保険でやろうと思うと5万、6万払わなきゃいけなくなっちゃう。

安田

そうですね。もしくは保障がすごく薄くなるかどっちかですね。

久野

そういうことです。

安田

民間保険はお金を貯める目的ではなく、いざという時の掛け捨てがいいと。

久野

積立式の保険より安いので、浮いた部分をnisaや企業型確定拠出年金で貯めて増やしていく。これがいちばん賢いやり方だと思います。

安田

いずれにしても遺族年金だけでは豊かには暮らしていけないってことですね。働ける年齢だったら「ちゃんと働いて稼いでください」と。

久野

社会保険は最低保障という考え方なので。だから厚生年金に入りたがらない人が多いんです。だけど入っていないと何かあった時に最低限の生活すら出来ない状態になります。

安田

ですよね。私もそう思ってひとり法人にして社会保険にちゃんと入っています。

久野

奥さんのためにも老後のためにも絶対に入った方がいいですよ。いつも個人事業主の人に強く言うんですけど。

安田

社保に入れるだけでも法人化する意味があると思いますけど。奥さんも役員にして二人分の確定拠出年金を貯められるし。

久野

おっしゃる通りなんですけど個人事業が好きな人っているんですよ。「絶対に法人化しないぞ」って。そういう人を見ているといつも心配になります。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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