生産性と個性の共存

一人ひとりが個性と得意分野を活かし切る生き方。個性や得意分野を犠牲にしてでも組織の目的を最優先にする生き方。どちらがより発展する社会になるのだろうか。個性を活かすことは大事だ。しかしそちらに偏り過ぎると生産性は下がる。一人ひとりに合わせたオリジナル衣服を製造するようなものだ。

規律、役割、組織目的。個を犠牲にし、そちらを優先することで事業や人間社会は発達してきたのではないか。確かにそれは事実である。だがそれだけでは説明のつかないこともある。例えば蟻や蜂は人間同様の社会性動物であるが、彼らは人間以上に統制の取れた社会を運営している。それは完璧な組織社会。

そこでは遺伝子に組み込まれた役割分担が絶対的ルールとなっている。規律、役割、組織目的を優先する集団が有利なら蟻や蜂は人間を凌駕していたはずだ。だが地球上で最も栄華を極めたのは人間である。時には自分勝手、時には手を抜き、時には気分が優れず、行動にムラがある人間がなぜ勝てるのか。

人間は個を優先し自分勝手なことをする。勝手に歌い、勝手に絵を描き、勝手に冒険に出かけ、勝手に遊び出してしまう。だが、これこそが人間文明の礎ではないのか。現代人が空を飛べるのも、光で通信ができるのも、エアコンの効いた部屋でくつろげるのも、好奇心が抑えられなかった結果なのである。

規律や効率よりも自分がやりたいことを優先する。その好奇心と行動がバラエティ豊かな社会と科学技術の進歩を生み出してきた。とはいえ規律、効率、生産性が不要なわけではない。個々がバラバラに好きなことをやっていては大きな成果は何ひとつ生み出せない。組織的行動は社会発展に不可欠なのである。

この二つの矛盾をどう説明すればいいのか。人間はこの矛盾を二面性によってクリアしている。自分の趣味も大切にしながら家族のイベントを優先したり。プライベートを重視しながら会社で決められた役割を演じたり。戦争になれば国家を優先したり。個と組織の優先順位が目まぐるしく入れ替わるのだ。

平時においては個を優先する。そして必要な時には組織を優先する。個と組織の二面性を同時に持つ社会性動物。それが人間なのだろう。コインの裏表のようにそれらは常に同居している。とことん自分勝手でありながら、調和を乱す者をとことん嫌がる。この自己矛盾こそが人間の人間たる所以なのである。

 

 

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