さよなら採用ビジネス 第5回「なぜ経営者は広告を出したがるのか」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①リクルートがもつビッグデータ、②口コミ信頼度を確保できるか、③良い会社の作り方が分からない? 第4回「リクルートがIndeedの次に狙うもの」


安田

本当にいい店、本当にいい会社には、勝手に人が集まって来る。前回はそういう話でしたよね。

石塚

そうですね。

安田

それなのに、どうして経営者は広告を出したがるんですかね。お金の力で人を集めようとするのは、かなり効率が悪いと思うのですが。

石塚

それしか方法がないんですよ。どうやったら自社が魅力的になるのかが分からない。

安田

だから広告を出し続けるしかない、と。

石塚

そうです。誰がどういう意図でコーポレートサイトを見るのか。まずそこを考えないと。

安田

なるほど。

石塚

取引先や取引先になるかもしれない人。その会社にものを売りたい人、あるいは買いたい人が見に来る。そういう人たちに対して会社や商品を魅力的に伝える。それがHPの役割じゃないですか。採用ページはもっと分かりやすい。だって求職者しか見ないわけですから。にも関わらず求職者目線に立っていないんですよ。その仕事につくメリット、幸せ、ベネフィットが何なのか、情報として載っていないんですよね。

安田

どの会社も似たようなことばかり書いてますよね。風通しが良いとか、生き生き働いてますとか、やりがいがありますとか。

石塚

あぁ、そうですね。

安田

何も言ってないに等しいような。

石塚

そうです、そうです。

安田

採用だけに限らないですけどね。例えば先日、あるお店の壁に「お客様に感動を」という紙が貼ってありました。それを貼ってどうするの?と思っちゃいましたね。それは顧客に宣言することではなく、感じ取ってもらうべきことですから。でもそのままHPに書いてる会社多いですよね。お客様に感動を、って。

石塚

まさに、そういう事です。何をどう書くべきかを考えてない。

安田

感動という言葉を使わずに、いかに感動させるか。やりがいという言葉を使わずに、いかにやりがいを感じ取ってもらうか。それが基本じゃないですか。

石塚

おっしゃる通り。

安田

どうやったら仕事が魅力的に見えるのかが分かっている。それが石塚さんの言うリテラシーなのでしょうか。

石塚

うーん、まさにその通りなんですけど。リアルな話をすると、多くの経営者が、人と企業の需給バランスや求職者の変化についていけない。人は知名度と給料を担保すれば集まるという、ぬぐいがたい感覚が根源にあるような気がしますね。

安田

確かに、お金をかければ人は採れるだろう、くらいに思っている経営者は多いですね。でもそこに限界を感じている経営者も結構いると思いますよ。

石塚

なるほど。

安田

それでもなぜお金を出し続けるかというと、楽だからだと思うんです。採用業者に任せているだけでは、もはや採用はうまくいかない。どうやったら採れるかを社長が自ら考えないといけない。分かっているけど大変なんで、今までの流れに乗っかっている。

石塚

経営者ってやればやった分、形になるものに惹かれるじゃないですか。例えば、売上や利益の改善は測定もしやすい。しかしながら、人に選ばれる会社とか、人が集まる会社の測定の仕方って、簡単そうだけど難しいですよね。

安田

難しいですね。

石塚

わかりにくいものや、すぐにパッと数値化できない、ビフォーアフターに置き換えにくいものって、経営者のモチベーションが湧きにくいと感じます。

安田

人が採れればモチベーションも上がるんじゃないですか?

石塚

現場感覚でいくと思いのほかそれも低いですね。関心興味がない人が多いんですよ。

安田

集客に関しても、広告出しておけば客が来ると思っている経営者って意外と多いんですよ。採用よりは多少真面目ですけど、ダラダラと広告に頼り続けている経営者は多い。

石塚

多いですね。年齢に関係なく、経営者歴が長い人ほどそういう傾向を感じますね。20年超えた方って変えようと思ってもなかなか変われない。かつての人と組織の作り方に囚われ過ぎている。たまに講演やセミナーを聞いて、そうなのかなと思いつつも、興味の優先順位が低いので改善まで着手しない。ところが年齢に関係なく、経営者歴の短い方は、そのへんの反応がいい。

安田

なるほど。

石塚

正しいか、正しくないか、ではなく、時代によって最適なものに適応できるかどうかだと思います。20年も経営の指揮をとって、そこそこ成功体験もあると、適応能力が下がって来るのだと思います。

安田

話はちょっとかわりますが、ZOZOTOWNのZOZOSUITってあるじゃないですか。着たら自分のサイズが分かるやつ。着たことあります?

石塚

知っていますけど着たことはないです。

安田

実は先日届きまして、早速着てみました。いままでの常識で考えたら「何でこんなの着ないといけないんだ」って斜に見てる人も多いんですけど、僕はすごい発明だなと思いましたね。

石塚

そうですよね!

安田

いままでの洋服ってSMLしかなくて、そのどれかに人間が合わせないといけなかった。それが逆転の発想で、服が人間のサイズに合わせて仕上がってくる。もしかしたら仕事もこうなるかも、と思いましたね。これまでは営業職・事務職・技術職みたいな中から選ぶのが常識だったじゃないですか。でもこれからはZOZOSUITのように、一人一人に合わせて仕事を作っていく時代なんじゃないかと。70億人いるとしたら70億種類の仕事がある。だから営業マン5人募集みたいな求人ではなく、5人募集する時には5種類の求人をつくるべきだと思います。

石塚

私もそう感じますね。リクルートも、なんとかドアなんて買収するより、スタディサプリ(公式サイトへ)を使って、小中学生の頃から勉強と仕事を繋げてほしい。こういう勉強をしてこういう結果が出る君なら、こういう仕事が向いているよ、とか。仕事のZOZOSUITみたいなものを作ってほしい。求職者目線って言いますけど、究極いうと一人一人にあわせて仕事をつくらないといけない。

安田

ですよね。でもそうなると俄然小さい企業が有利ですね。

石塚

とても有利ですね。

安田

大手企業さんが総合職1000人にむけて、1000個の求人広告を作れるかと言うと、そんな効率の悪いことできない。リクルートだって、そんな面倒くさいことやるより、マスでガサッと儲ける方に行くでしょう。

石塚

残念ながらそういう方向ですよね。大きな企業体は、効率を無視することが出来ないですから。どうしてもマスという発想になってしまう。

安田

逆に小さい会社は、社長が面倒くさいことをちゃんとやれば、お客さんも来るし、人も採れるし、お金もかからないという事ですよ。そこを面倒臭がらずにやった会社が勝ち残って行く気がします。

石塚

すごくそう思います。私が現場でやっているのも、まさにそんな仕事ですよ。求人広告をうまく作るのではなく、誰かにとってのより魅力的な仕事を作り出す。それがこれからの採用ビジネスの根幹なのかもしれません。

次回第6回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

 

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