さよなら採用ビジネス 第7回「欲しい人は目の前にいる」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①人間の数だけ職種と求人をつくる、②私が好きな仕事の伝え方 第6回「ZOZOスーツ型採用」


安田

新卒一斉採用はもう古いというお話でしたね。たくさん集めて、たくさん落とす採用は、時代に合ってないと。

石塚

はい、その通りです。

安田

ワイキューブという会社では、人気企業ランキング1位を目指して会社説明会に1万人以上集めていました。たくさんの学生が集まる気持ち良さに酔っていました。

石塚

非効率的だと思ったことはなかったですか?

安田

実はちょっと思っていました。集め過ぎて面接も引きつけも中途半端になっていましたから。最も効率が良かったのは2,000〜3,000人の頃。採用レベルもその頃がピークでした。

石塚

2,000〜3,000人でも十分凄いですけど。

安田

採用コンサルティング会社という手前、そのくらいは集めざるを得なかったですね。ワイキューブさんは何人集まってるの?って、いつも聞かれましたから。

石塚

そういう時代でしたよね。各社が説明会の参加人数を争っているような。

安田

見栄の張り合いみたいな所がありました。今から考えたらバカバカしいですけど。

石塚

今だったら、どういう採用をしますか?

安田

いい人が目の前にいたら口説く。結局それが一番かなと。実は当時の取締役も、私がそうやって口説いてきた人達ばかりでした。

石塚

アナログの強さって、人と人なので。どんなに時代が変わっても、スマホみたいなものが普及すればするほど、それは有効だと思うんですよね。ただ、そこにエージェントという職業人がいて仕事として引き受けるというのは、もう古いと思います。

安田

自分のやってた仕事をそこまで否定するのもすごいですね(笑)

石塚

スッゴク冷めた自己認識をすると、そういう時代じゃなくなって来ている。

安田

実は僕も同じなんですよ。ビジネスとして人を集めてくるということが、もうあまり必要ないんじゃないかなと。ネットの普及によってよりダイレクトな出会いが昔より沢山あるじゃないですか。

石塚

おっしゃる通りですよね。

安田

先日も、ある社長さんに相談されたんですよ。ほんと採用が出来なくて困っていると。で、「どんな人が欲しいんですか?」と聞いたら「いつも行く吉野家でバイトしている子が素晴らしい」と言う訳です。めちゃくちゃ気が利くし、頭もいいし、非常に良い気分にしてくれる。「ああいう子が欲しいんだよね」と。

石塚

ほほう。面白い。

安田

で、聞いたんですよ。「何でその子口説かないんですか?」って。そしたら「え!?」ってとても驚くんですよ。「いやいや今働いているし」と。でもSONYで働いているわけじゃない、吉野家でしょ。社長が本気で口説いたら、心が動くかもしれないじゃないですか。

石塚

全くその通りです。私がエージェントなら間違いなく口説きますね。

安田

でしょう。でもその社長さんは「確かにそうかもしれないね」なんて言いながらも結局は口説きに行かなかったんですよ。そこまで具体的に、目の前で人と出会っているのに、「え?何で」っていう。不思議でしょうがないです。

石塚

日本人のメンタリティとか、奥ゆかしさなのですかね。あと、羞恥心とか。

安田

僕は違うと思います。採用というのは、求人広告を出して、そこに反応してきた人から選ぶものだ、と思い込んでいるだけ。

石塚

拭いがたい先入観が出来上がってしまっている、と。

安田

そうです。だから目の前にいい人がいるのに、自ら口説くという思考が完璧に抜け落ちてしまっている。

石塚

実は「職業紹介はもう古い」と考えている理由のひとつに、そういう仕事を社員がやる時代が来ると思っているんですよ。

安田

社員が社員にしたい人を口説くということですか?

石塚

はい。これだけ世の中に採用ビジネスに関わった人がいて、なんでもっと内製化しないんだろうと。

安田

内製化というのは、会社の中にそういう部門をつくるってことですか?

石塚

はい。これまでの人事部とは違い、自らの人脈で人を口説いて来る部門。

安田

いわゆる、リファラル採用というやつですか?

石塚

リファラル採用は現職があって、そのついでじゃないですか。そうではなく、専業でずっと行う社員を何人も用意して、その行動自体にそれなりの対価を払う。成功報酬ではなく、ノルマを持たせるのでもなく、緩やかに人との繋がりをつくらせる。

安田

なるほど、それは新しい。でもそんな、成果をコミットしないような部署に、企業はお金を払いますかね?

石塚

社外の優秀な人を口説くこともそうですが、従業員が1,000人を超えたら、社内の人としょっちゅうご飯食べたり、週末一緒に遊んだりして繋がる部門が、必要になってきます。

安田

飲んだり、遊んだりして、繋がる部門ですか?

石塚

社内のどこに、どういう優秀な人間がいるのか。彼らは何を考えているのか。定着と活躍を考えた時、マンスリーでそういうレポートをあげる専任職が必ず必要になってきます。

安田

大企業って、中間管理職がそういうことをやっているイメージがありますけど。

石塚

いえいえ。ある一定規模の企業って、自社のリソース把握がザルなんですよ。

安田

確かに、社内のリソースが見えていないのもそうですし、その人に合った活かし方が分かっていないというのも、よくある話ですよね。

石塚

採用ビジネスを20年以上やりましたけど、ハッキリ感じるのは、どの大企業も中間管理職やマネージャー職の質がものすごく劣化したということ。90年代後半から2000年頃に比べると驚くほど劣化しています。

安田

具体的にはどのように劣化しているんですか?

石塚

理由は簡単で、2000年位から成果主義でプレイングマネージャーがたくさん増えたじゃないですか。育成をしっかりやることより、目先の短期間の業績をキチっと示さないと自分のポジション自体が危ない。

安田

大企業の不祥事が増えてますけど、そういう意味では経営トップも同じですよね。みんな自分の任期を無事に過ごしたい。リスクを背負って10年後のタネを育てるよりも、出来るだけ問題を先送りにしたい。

石塚

そうですね。でもこのままでは先がない。

安田

だから新しい組織運営の形が必要だと。

石塚

その通りです。組織内部の人と繋がり、組織外部の人とも繋がる。そういう部門はもはや不可欠です。

安田

なるほど。でも定着はともかく、それで採用課題まで解決しますかね?やっぱり社長自らが口説く必要があると思いますけど。

石塚

確かに小さな会社はその通りです。社長が自ら口説く必要があります。でも大きな会社には安田さんが思っておられる以上のリソースが眠っているのです。

安田

使える人材がたくさん眠っていると?

石塚

もちろん、そういう人材も眠っています。でもそれ以上に、その周りの人脈が大きい。自社の社員とSNSなどで繋がっている社外の人材。そこは宝の山です。私がエージェント時代にまず目をつけていたのはそこです。そこを掘るのです。

次回第8回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

 

感想・著者への質問はこちらから