7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回のおさらい ①社員を雇わない理由、②専門性の高い優秀な人材は1社では雇えない 第11回「優秀な人は雇えない」
私も、石塚さんも、「もう社員は雇わない」っていう話でしたよね。
はい。我々に限らず、これからは「人を雇わない組織」がどんどん増えて行く気がします。
そういう環境の中で、ひとつ考えている事がありまして。
ほう、何ですか?
ビジネスってBtoBとBtoCに分かれますよね。
はい。対企業のビジネスと、対消費者のビジネス。
そこにメルカリみたいな仕組みが登場して、新たにCtoCという領域が生まれたと思うんですよ。個人と個人が直接取引するという事業形態。
昔からあった領域だとは思いますが、確かにメルカリによって一気にマーケット化された感じがしますね。
はい。一気に加速しました。そして私が予測しているのが、“CtoB”という新たな領域の誕生です。
個人が企業相手に商売するという事ですよね。
企業相手の個人商売は今までにもありましたが、下請とか個人代理店みたいな仕事に限られていました。
そうではないと?
はい。個人が自分のオリジナル商品を作って、それを企業に買ってもらうという事業形態です。例えば私や石塚さんも、そうじゃないですか。
確かにそうですね。下請けでもないし、代理店でもない。
企業がお金出してまで個人から買うものって、結構なスペシャリティに限られると思うんですよ。石塚さんはそれを持っている1人だと思います。
恐れ入ります。
で、普通の経営者だったら雇いたいと思うんですよ。外注するよりは、雇っていっぱい仕事させたほうが得だろうっていう。そういう意味では、もし石塚さんを雇うとしたら、おいくらぐらいですか?
いやいやいやいや(笑)
「どうしても雇いたい!」っていう人が出てきて、「求人の仕事をウチのためだけにやってくれたまえ」なんて言われて、「じゃあ1億出すよ」って言われたら、やっぱちょっと心動くでしょ?
いや、動きません。
動かないですか?
動きません。
まったく?
はい。動きません。
「1年だけやろうか」とか。
たまに、そういう話ありますけど、断ります。
なんと!断りますか。
はい。
それは、何故なんですか?
サラリーマンやるのが嫌だからです。
それは雇われるのが嫌だとか、通勤が嫌だとか?
最後に「社長どうしますか?」って聞かなくちゃいけないから。誰かに決めてもらうということが、もう性に合わない。それと、人材紹介で色々と見てしまったので。
色々と、おっしゃいますと?
人材紹介でいろんな経営幹部を紹介したじゃないですか。だから、僕、そのビフォーアフター見てるんですよ。最初は相思相愛でも、行った後に経営者の心が変わる場合が多いんです。
入社した後に?
はい。
確かに。ありそうな話ですね。
よくありますよ、もう。
「あんなに頼み込んでたくせに」みたいな。
本何十冊書けるぐらいの実例を僕見てます。ぜんぶ墓場まで持ってかなきゃいけませんけど。それが見えるので、長続きするとは思えないんですよ。
たしかに。ソフトバンクの孫さんも「後継者にすべて任す」と言ってましたもんね。
ユニクロだってそうじゃないですか。
確かに。まあでも仮に、もし石塚さんを雇うとしたら、客観的にいくらが妥当だと思いますか?斡旋する立場として値付けするなら。
月80万プラスインセンティブ。
ということは、年収1,000万くらいが固定で、プラスインセンティブ?
はい。いつまでに何をやるかを数字も含めて決めた上で、インセンティブとして雇用契約書に明文化する。
ゴール設定を明確にしたい、ということですか?
「頑張ってくれれば、悪いようにはしない。インセンティブも払いますよ」みたいな、あやふやな感じだったらその場で断ります。
ではインセンティブも込みの総年収だったら、いくらぐらいのイメージですか?
3,000万〜4,000万くらいじゃないですかね。
まあ、そうですよね。
はい。
やっぱり1,000万じゃ「飛び抜けてスペシャリティ持った人は雇えない」ということですよね。少なくても2,000万とか3,000万とか。
そうなると思います。
でも、そうなってくると、普通の会社の社長・役員クラスなわけです。雇えない、ということも事実なんでしょうけど、もう雇わないほうが良いんじゃないのかなっていう。
おっしゃる通りですね。
フルに雇用するよりも、スポットで100万、200万払う方が、はるかに安いし、はるかに得るものが大きい。そういう時代なのかなって気がします。
はい。これはもう本当そう思います。僕の例でいうと、仮に固定給で3000〜4000万円払ってもらっても、それに見合う成果は出せないですね。
石塚さんなら、そのくらいの成果は上げると思いますが。
赤字かどうかという話じゃないんですよね。固定給で3000〜4000万円出すということは、その10倍くらいは利益としての付加価値を出さなくてはならない。これは経営者として考えたら普通の感覚です。
確かに、そうですね。社会保険料もかかるし、他の社員とのバランスもあるし、雇うことによるリスクもある。1000〜2000万円程度の利益では見合わないですね。
そうなんです。僕が雇う側だったとしてもそうです。でも現実的に10倍の利益を上げることは、ほとんどの場合不可能です。
個人だったらそんな利益を上げる必要もないと。
はい。3000万の年収が欲しいなら、3000万円売上げればいいだけ。だからはるかに気が楽です。
外注であれば、10倍のリターンを求める必要もないですからね。
固定給の高い社員は日本企業には合わないんですよ。
仕事が出来ない社員は困るけど、出来すぎて報酬の高すぎる社員も困ると。
はい。お互いの利害を追求して行った時、年収1000万円を超える社員は外注化することになるのではないでしょうか。
次回第13回へ続く・・・
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。