さよなら採用ビジネス 第12回「石塚さんを雇ったら、おいくらですか?」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①社員を雇わない理由、②専門性の高い優秀な人材は1社では雇えない 第11回「優秀な人は雇えない」


安田

私も、石塚さんも、「もう社員は雇わない」っていう話でしたよね。

石塚

はい。我々に限らず、これからは「人を雇わない組織」がどんどん増えて行く気がします。

安田

そういう環境の中で、ひとつ考えている事がありまして。

石塚

ほう、何ですか?

安田

ビジネスってBtoBとBtoCに分かれますよね。

石塚

はい。対企業のビジネスと、対消費者のビジネス。

安田

そこにメルカリみたいな仕組みが登場して、新たにCtoCという領域が生まれたと思うんですよ。個人と個人が直接取引するという事業形態。

石塚

昔からあった領域だとは思いますが、確かにメルカリによって一気にマーケット化された感じがしますね。

安田

はい。一気に加速しました。そして私が予測しているのが、“CtoB”という新たな領域の誕生です。

石塚

個人が企業相手に商売するという事ですよね。

安田

企業相手の個人商売は今までにもありましたが、下請とか個人代理店みたいな仕事に限られていました。

石塚

そうではないと?

安田

はい。個人が自分のオリジナル商品を作って、それを企業に買ってもらうという事業形態です。例えば私や石塚さんも、そうじゃないですか。

石塚

確かにそうですね。下請けでもないし、代理店でもない。

安田

企業がお金出してまで個人から買うものって、結構なスペシャリティに限られると思うんですよ。石塚さんはそれを持っている1人だと思います。

石塚

恐れ入ります。

安田

で、普通の経営者だったら雇いたいと思うんですよ。外注するよりは、雇っていっぱい仕事させたほうが得だろうっていう。そういう意味では、もし石塚さんを雇うとしたら、おいくらぐらいですか?

石塚

いやいやいやいや(笑)

安田

「どうしても雇いたい!」っていう人が出てきて、「求人の仕事をウチのためだけにやってくれたまえ」なんて言われて、「じゃあ1億出すよ」って言われたら、やっぱちょっと心動くでしょ?

石塚

いや、動きません。

安田

動かないですか?

石塚

動きません。

安田

まったく?

石塚

はい。動きません。

安田

「1年だけやろうか」とか。

石塚

たまに、そういう話ありますけど、断ります。

安田

なんと!断りますか。

石塚

はい。

安田

それは、何故なんですか?

石塚

サラリーマンやるのが嫌だからです。

安田

それは雇われるのが嫌だとか、通勤が嫌だとか?

石塚

最後に「社長どうしますか?」って聞かなくちゃいけないから。誰かに決めてもらうということが、もう性に合わない。それと、人材紹介で色々と見てしまったので。

安田

色々と、おっしゃいますと?

石塚

人材紹介でいろんな経営幹部を紹介したじゃないですか。だから、僕、そのビフォーアフター見てるんですよ。最初は相思相愛でも、行った後に経営者の心が変わる場合が多いんです。

安田

入社した後に?

石塚

はい。

安田

確かに。ありそうな話ですね。

石塚

よくありますよ、もう。

安田

「あんなに頼み込んでたくせに」みたいな。

石塚

本何十冊書けるぐらいの実例を僕見てます。ぜんぶ墓場まで持ってかなきゃいけませんけど。それが見えるので、長続きするとは思えないんですよ。

安田

たしかに。ソフトバンクの孫さんも「後継者にすべて任す」と言ってましたもんね。

石塚

ユニクロだってそうじゃないですか。

安田

確かに。まあでも仮に、もし石塚さんを雇うとしたら、客観的にいくらが妥当だと思いますか?斡旋する立場として値付けするなら。

石塚

月80万プラスインセンティブ。

安田

ということは、年収1,000万くらいが固定で、プラスインセンティブ?

石塚

はい。いつまでに何をやるかを数字も含めて決めた上で、インセンティブとして雇用契約書に明文化する。

安田

ゴール設定を明確にしたい、ということですか?

石塚

「頑張ってくれれば、悪いようにはしない。インセンティブも払いますよ」みたいな、あやふやな感じだったらその場で断ります。

安田

ではインセンティブも込みの総年収だったら、いくらぐらいのイメージですか?

石塚

 3,000万〜4,000万くらいじゃないですかね。

安田

まあ、そうですよね。

石塚

はい。

安田

やっぱり1,000万じゃ「飛び抜けてスペシャリティ持った人は雇えない」ということですよね。少なくても2,000万とか3,000万とか。

石塚

そうなると思います。

安田

でも、そうなってくると、普通の会社の社長・役員クラスなわけです。雇えない、ということも事実なんでしょうけど、もう雇わないほうが良いんじゃないのかなっていう。

石塚

おっしゃる通りですね。

安田

フルに雇用するよりも、スポットで100万、200万払う方が、はるかに安いし、はるかに得るものが大きい。そういう時代なのかなって気がします。

石塚

はい。これはもう本当そう思います。僕の例でいうと、仮に固定給で3000〜4000万円払ってもらっても、それに見合う成果は出せないですね。

安田

石塚さんなら、そのくらいの成果は上げると思いますが。

石塚

赤字かどうかという話じゃないんですよね。固定給で3000〜4000万円出すということは、その10倍くらいは利益としての付加価値を出さなくてはならない。これは経営者として考えたら普通の感覚です。

安田

確かに、そうですね。社会保険料もかかるし、他の社員とのバランスもあるし、雇うことによるリスクもある。1000〜2000万円程度の利益では見合わないですね。

石塚

そうなんです。僕が雇う側だったとしてもそうです。でも現実的に10倍の利益を上げることは、ほとんどの場合不可能です。

安田

個人だったらそんな利益を上げる必要もないと。

石塚

はい。3000万の年収が欲しいなら、3000万円売上げればいいだけ。だからはるかに気が楽です。

安田

外注であれば、10倍のリターンを求める必要もないですからね。

石塚

固定給の高い社員は日本企業には合わないんですよ。

安田

仕事が出来ない社員は困るけど、出来すぎて報酬の高すぎる社員も困ると。

石塚

はい。お互いの利害を追求して行った時、年収1000万円を超える社員は外注化することになるのではないでしょうか。

次回第13回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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