証券取引所から人間が消えたのはいつ頃だったろう。
今そこにあるのはメディア向けのディスプレイと
取引を自動処理するコンピュータだけである。
為替や株式投資による資金の運用において、
もはや人間はAIに太刀打ちできない。
圧倒的な情報量、圧倒的な処理速度がもたらす、
圧倒的な運用能力。
優秀なトレーダーを何人も雇うより、遥かに有能で、
人件費もかからず、休暇を与える必要もない。
AIなら24時間365日、何一つ文句を言うことなく
金を増やし続けてくれるのである。
投資だけではない。
融資の判断も今やコンピュータの仕事だ。
データを入力すれば、答えは即座にもたらされる。
どのような資産があり、
事業にはどれだけの将来性と、
回収リスクがあるのか。
膨大なデータを駆使し、融資可能金額、
融資期間、金利など、必要な答えを人間よりも早く、
そして正確にはじき出してくれる。
人間がやることはデータの入力と、
出された答えに従った行動だけ。
優秀な人材が必要なくなるのも道理である。
今後、あらゆる金融ビジネスにおいて、
人間の仕事は減り続けて行くだろう。
いや、金融だけではない。
たとえばアパレル業界においても、
売れる商品の予測、売れる数量の予測、
売れる時期や価格帯の予測など、
有能な経営者に託されていた仕事でさえも、
AIに置き換わって行く。
どの人材を採用し、どういう部署に配置し、
どのような仕事を任せるのか。
どの時期に、どのメディアを使い、
どういう広告を打つのか。
あらゆる経営判断がAIへと変わる。
人はルールがあるゲームにおいて、
AIに勝つことが出来ない。
オセロで勝てなくなり、チェスで勝てなくなり、
囲碁で勝てなくなり、将棋でも勝てなくなった。
AIは自ら学習し、どんどん強くなって行く。
AIに仕事を奪われる未来を恐れる人は多いが、
真に恐れるべきはそこではない。
現代社会におけるビジネスは、
巨大な金儲けゲームなのである。
何に金を使い、どうやって金を増やすのか。
最もお金を増やした者が勝者である、
という「金儲けゲーム」において、
人間に勝ち目はなくなった。
つまり「金を稼ぐ」という作業そのものに
人間が必要なくなるのである。
では人間は何をやるのか。
稼ぐ役割がなくなれば、使う役割しか残らない。
それも投資や運用ではなく、
人間にしか出来ない愚かでバカバカしい使い方。
無駄遣いこそが人間に残された役割なのかもしれない。
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