泉一也の『日本人の取扱説明書』第26回「粋の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
「粋(いき)」を英語に訳すとstylishやsmartといった言葉になる。今風の言葉だとcoolだろう。coolが「涼しい」であるように、粋にも涼しさを感じる。涼しさというよりむしろ爽やかさであろう。その爽やかさは、潔い姿勢に通じる。潔いというのは、自分に確たる軸があり、余計なものをすっぱり手放す様である。「武士道とは死ぬことと見つけたり」「江戸っ子は宵越しの銭はもたぬ」といった言葉に粋を見るのは、命や金への執着を手放す感があるからだ。
この手放すことを極めていくと「わび・さび」といったシンプルな美が現れてくる。以前、和食は引き算、俳句とは最少文字の詩という話をしたが、引いていった先に現われる価値を日本人はよく知っている。こうした文化を持っているにも関わらず、日本製の電化製品は機能満載。ガラパゴスとまで言われている。逆にmacやイケアの商品は機能もデザインもシンプルで取扱い説明書も最小限だ。スティーブ・ジョブスが禅を学んだように、そしてこんまりさんの「片づけの魔法」といった書籍が世界で求められているように、日本の粋の文化を世界が学んでいるのだ。
日本はその本家でありながら、逆行をしている。「あれもこれも必要」といったフル装備をし、安心感を得ようとしている。旅行でいえば荷物を増やしすぎて、その重たい荷物で旅が楽しめないのと似ている。なぜあれもこれも必要となるかというと、日本人は他の民族に比べてDNAレベルで不安因子が強いそうだ。この不安因子があるお陰で、失敗とリスク回避ができるのだが、「あれもこれも必要」といったフル装備で重たくもなる。この不安からくる執着は、重たい荷物に振り回される旅人のようにかっこ悪いものだと、先人たちは粋という美意識を磨いたのだ。