泉一也の『日本人の取扱説明書』第26回「粋の国」

会社でいえば、「あれもこれも必要文化」は現場にしわ寄せがくる。現場の作業が増え、提出資料が増え、一方では働き方改革も必要だからと勤務時間を減らす。固定費である人件費も削る必要があるので、人を減らし・・と、その先にあるのは、メンタルの問題に虚偽の報告にハラスメントだ。会社で最も大切だった、働く人たちの幸せ感を失っている。なんのために会社があるのかという軸を忘れ、不安をベースに「あれもこれも必要」と意思決定をしていくと、本当に必要なものを失う運命にあるのだ。

教育も同じ構造にある。生徒たちが将来困らないように「あれもこれも必要」とどんどん知識にスキルに教えていくと、その学んだ生徒たちも「あれもこれも必要」といった不安をベースにした人生を送ることになる。フィンランドでは宿題を撤廃し、授業数を減らし、教えることよりも学び合いを増やしたことで、世界トップクラスの学力を得ている。粋な教育だ。

企業研修では人事部門から「泉先生、うちの社員にこれを教えてください、あれを教えてください、そして提出物を出させてください」とあれもこれも必要的な依頼がくる。そのスタンスを見て、粋じゃないなぁとすっかり熱が冷めてしまう。講師の熱を冷まして一体何が得られるのだろうか。生産性を上げようと研修をしているのに、生産性を下げているのだが、車でいうとスピード上げようとしているのにブレーキを踏んでいるのと同じである。この滑稽な姿が見えたら、恥ずかしくなる。その恥ずかしさで止まらず、滑稽な姿を見て笑えばいい。そうしたら自分を手放すことができる。そこに「粋」が現れてくる。

粋な採用、粋な教育、粋な会議、粋な人事制度と、企業活動すべてに「粋」の感性を入れれば、そこには美しさがあり、自然とうまくことが進み始める。それがなぜか説明しろって。そんな野暮なこと聞くんじゃないよ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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