第197回「日本劣等改造論(29)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― 仕事の動機づけ(後編)―

前編では仕事におけるWell-beingが低すぎる日本人の実体と、その低いWell-beingを高める「独立の氣概」の話をした。後編では、その氣概をどうやって引き出すのか、迫ってみよう。

日本は歴史的に独立したストーリーがすっぽり抜けているが、たとえそのストーリーを知ったとしても独立心は高まらない。日本中が実効支配していたGHQに対抗して追い出したのではなく、無難な合意をして引き続き穏便にと変えただけだからだ。過去の歴史に氣概の解はない。

そう言うと、憲法改正!今からでも自主憲法を作るのだ!という話になりそうだが、そこには触れないでおこう。少子高齢化した日本では、高齢者の票数が多く、選挙で力を持っている。高齢者は「さあ、独立だ!」なんて学生運動をするような意欲はないし、これまでの憲法でも充分、豊かに幸せになった。憲法改正が実現するとしたら、第2次ベビーブームの我々が死ぬ40〜50年後ぐらいになるだろう。

では、どうしたら独立の氣概が生まれるのか。一つの道は、正社員をなくすこと。ここが崩れれば、いい会社に行くために塾にまで行って勉強し、親や先生の言いなりになる「従属」がなくなる。

公務員以外は全員、請負契約とする。会社のオーナーから仕事を任された請負契約の社員だけの会社にしてしまうことである。完全なジョブ型である。

そうすると、生活が不安定になるので、ここはセーフティネットが必要となる。労働組合ではなく事業協同組合を作って、そこの組合員になる。一人ひとりが事業者として組合員となり、共助の関係を築くのだ。仕事がない人には仕事を一緒に探し、専門知識や技術がない人には教育の機会を与え、不当な請負契約をする会社には組合が交渉に入る。

昭和は労働組合が政治に影響をあたえて労働者の働く権利を守ったように、事業協同組合が政治に働きかけて、請負社員の仕事の権利を守るような公助の力を引き出す。たとえば、ベーシックインカムのように、組合員として活動している限り、無期限で毎月10万円が支給されるような。組合員が4人でシェアハウス暮らしをすれば、食費、水道光熱費、通信費を払っても充分生きていけるだろう。新卒の就活もこれでなくなる。

もし将来、正社員がないと分かっていたら、早くから独立する道を探し歩みはじめるだろう。学習塾は激減し、仕事のインターンのような体験型の学びの場が一氣に増えるだろう。子供の頃から自分で稼いで生きる姿を間近で見て、学び、真似するのだ。多種多様な働くスタイルとロールモデルに出会っていくうちに、将来のビジョンが見えてくるはずである。

国家として独立の氣概は生まれないなら、個人で独立をする道を作るしかない。そして独立する個人を支援しあえるコミュニティとして国造りができれば、それが自分たちで作った国としての氣概が生まれるだろう。

これは、きっと、うまくいく。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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