第151回「共助の国(第2話)」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第151回「共助の国(第2話)」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

「自助、共助、公助」。

第1話を読むと、この言葉の感じ方が変わったはず。

私は40歳ぐらいまで「自助」が基本にあってこその「共助と公助」だと思っていた。この思い込みは、明治時代に輸入した西洋思想が発端だと知った。自助思想を真面目に信じて実行した先人たちは、日露戦争に勝ち、さらに戦後の大復興を成し遂げ、その成功体験によって自助思想は日本全体に普及する。「他力本願はダメ!もっと努力しなさい!」といった言葉に代表されるように。

ただ、明治以降の付け焼き刃思想なのでどうしても中途半端か極端に振れる。これに嫌気が差す自助思想の強い日本人は、自助先進国の欧米社会に憧れを抱く。

西洋は自助論(Godは自ら助くるものを助く)をもとに公助を担う国家が生まれ、その自助と公助が柱となって共助が機能する社会。民主国家の土台にある「自由・平等・博愛」はあくまでも自助ができる人を前提に作られる。

18世紀の英国の経済学者・哲学者であるアダム・スミスが国富論で説いた「神の見えざる手」とは、個人に任せて市場を自由にしていれば最大の利益が生まれるといったものだった。本当は、アダム・スミスは公共事業など公助のこともいっているのだが、ここだけクローズアップされて利用されてきた。国富論を利用し「自助>公助」が大切だとし、現在の世界的な主流である新自由主義経済へとつながる。

そこに「待った!」をかけたのがマルクス。マルクスは資本論の中で、神の見えざる手に任せていると、自助ができる人=資本家だけが豊かになり、そこに乗れない人=労働者は貧しくなる一方だと。貧富の差が拡大し階級化することで、社会に不均衡が起こり、戦争や内乱などが起こるといった。そして「自助<公助」に転換する革命を起こす必要があるといった。それが共産主義革命である。

貧しい人たち、差別されている人たち、その状況に憤慨する人たちはこの思想に憧れ、共産化を推進した。欧米列強と比べて貧富の差が大きかった国々が次々と共産化した理由もわかるだろう。

冷戦構造は「自助>公助」陣営と「自助<公助」陣営の対立だと見えてくる。自助の勝ちのように冷戦が終わったが、見えないところでこの対立は残っている。

ところで共助はどこにいったん?とそろそろ氣になってきただろう。

自助をジジョ、公助をコウジョと読むが、音読みは男性的(自助)で国家的(公助)な感じがするので、共助をここからはキョウジョでなく「ともすけ」と親しみを持って読んでいただきたい。

日本は共助(ともすけ)が柱になって、自助と公助が機能する社会であった。五重の塔の真ん中に一本の柱がありそれを心柱というが、その心柱のように共助がいた。心柱のおかげで、五重の塔は地震に強かった。その共助は明治以降おいやられてしまう。

国学(古代日本の文化・思想を研究する学問)の四大人(しうしと読む、四天王みたいなもの)の一人本居宣長は、源氏物語を研究し、その本質を「もののあはれをしる」という言葉に綴った。これが日本人のこころだと。あはれという言葉には、無常への哀愁があるが、その哀愁に美しさを感じるのが日本人であると。

「花びらのように散りゆく中で、夢みたいに君に出会えた奇跡。生まれ変わってもあなたのそばで花になろう」

常なら無い儚さに心を寄せるこの詞から、無常への哀愁美を感じただろう。この美の中に、共助の姿が見えてくる。あはれだからこそ、出会いは奇跡的な価値があり、美しい。その儚さの哀愁を大切にする。それが共助なのだ。

以前は日本塔の心柱だった共助は、追いやられてしまった。ロード・オブ・ザ・リングの放浪者アラゴルンのように。果たして共助は故郷に帰ってくることができるのだろうか。(第3話に続く)

 

著者の他の記事を見る

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

著者ページへ

 

感想・著者への質問はこちらから