第60回 日本人的模範生

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

 

【ドバイのウメール君】

7年前、ドバイでシェアオフィスを借りていました。
そのシェアオフィスには、
ウメール君というパキスタン人がいました。

昼食を一緒にとるなど、仲良くしていたのですが、
彼は、銀行からの借金を滞納をしたため、
会社をクビになり、パスポートを取り上げられ、
連絡が途絶えてしまいました。

ああ、美人の奥さんと乳飲み子がいるのに、
借金取りに追われて、本国へ強制送還とは。
借金の件は本人が悪いとしても、
とても残念な気持ちを感じていました。

【成功を喜べない感覚】

そのウメール君から、連絡が来たのです。

パキスタンに帰って、
5年で4,000万円ほどを貯め、
それを元手に土地を買って、
新しく会社を立ち上げたそうです。
自動車ディーラーの会社で、
オープンセレモニーに来ないか?
とのことでした。

借金取りから逃げ回っていたウメール君、
パスポートを取り上げられたウメール君、
毎回昼ごはんを奢ろうとするウメール君、
携帯電話を何度も止められるウメール君、
身重の奥さんに借金をさせるウメール君。

そんなウメール君しか知らないので、
にわかには本当のことだと
信じることができません。

友の成功を信じることができないどころか、
成功してほしくないとさえ、
思ってしまう自分がいました。

なぜそう思うのかというと、
私にとってウメール君は仲の良い友達で、
彼に迷惑をかけられたわけでも、
貸したお金が返ってこなかったわけでもありません。
ただウメール君は、
約束は守る、誠実に生きる、他人に迷惑をかけない。
という、日本人的模範生ではないので、
私はなんとなく疎ましく感じたのです。


【おめでとう、ウメール君】

一晩寝て、考えを改めました。

日本人的模範生でなくとも、
パキスタンで成功しているのなら、
それはそれで、お祝いをしてあげるのが、
普通の友達としてのあり方かなと思い直したのです。
なにより、彼は日本人ではないのですから、
日本人的模範生のように振る舞う必要はありません。
ビジネスが成功すれば、それで評価されるのです。
私の善悪の判断を押し付ける必要もありません。

彼が大好きだったことを思い出したので、
たっぷりと日本のお菓子を送りました。

もちろん、
オープニングセレモニーはお断りしました。
行ったとたん、
怖い方々が出てきたりすることも、
充分にありえると考えたからです。

 

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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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