第83回 なぜ事業承継ができないか

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

事業承継が問題になっています。
私は事業承継をテーマにした取材を継続していますが、
後継者がいないのが主な要因のようです。

そのなかで一つ発見したことがあります。
事業を承継するのに壁になるのは、
お金の要因もあるということです。
そのお金の問題は、特に、
長く経営しているオーナー経営者において起こります。

オーナー社長にとっては、
会社の資産も個人の資産も自分のものです。
支払いが会社なのか、個人なのかは、
毎日様々な支払いをしながら、
後で振り分けることになります。

そして、
一年に一度自分の報酬と会社の収益を決めますが、
ここで、税金の計算が働きます。

会社の法人税と個人の所得税を比べるのですが、
手残りを考えると、会社の利益を優先しがちです。

乱暴に計算すると、1億円の利益が出たとして、
所得税を引かれて個人口座に5000万円残るか、
法人税を引かれて会社口座に6500万円残るかを
選ぶことになるのです。

オーナー社長にしてみると、
手残り6500万円を選ぶのが通常でしょう。
どちらも自分のお金なのですから。
そして、
そういう節税的選択を長年繰り返していくと、
会社は裕福でも、
社長の個人資産はあんまりない
という珍現象が起きてしまいます。

取材をすすめていくと、
個人の現金を持ち合わせていないオーナー社長は
結構な割合でいらっしゃるのがわかります。
と同時に、
会社の価値が膨れ上がっているので、
その株式を引き受ける人が見つからない
ということがあるのです。

後継者となる代わりに、
例えば10億円の株式買取を要求したところで、
上手な事業承継とはなりません。
後継者としてみれば、
いきなり大きな負債を背負わされるのは、
よく理解できません。

オーナー経営者は
社員に良かれと思って、自身の報酬を抑えたり、
会社に利益を残したりしたのかもしれません。
しかし、
社長退任は必ずやってきます。
オーナー社長の出口を事業承継とするなら、
社長自らが出口を閉ざしているとも言えます。

事業承継においては、
後継者を育てることも大事ですが、
個人と会社の資産管理もやるべきことの
ひとつとして
認知されても良いような気がします。

事業承継の際、
お金のトラブルを集めたサイトを運営しています。
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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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