第12回 「お金が欲しい」の抽象度を上げると「幸せになりたい」になる。

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第12回 「お金が欲しい」の抽象度を上げると「幸せになりたい」になる。

安田

前から感じているんですが、藤原さんが言う「従業員満足度の上げ方」と、一般的な会社が言う「従業員満足度の上げ方」って、ちょっと違いますよね。


藤原

そうかもしれませんね。内容というよりは目的の違いかもしれません。

安田

目的と言いますと?


藤原

企業さんで多いのが、「これからはES(従業員満足度)のことを考えないと、業績が伸びないぞ」という考え方です。つまり目的は「業績アップ」なんですよ。「従業員満足度を上げること」自体が目的ではない。

安田

ああ、なるほど。逆に言えば、業績が伸びているなら、ことさらESに注力する必要もなくなると。そう言われてみると、確かに藤原さんとは随分違う感じがしますね。藤原さんはESを上げること自体を目的だと考えているような。


藤原

まさに仰るとおりなんです。一番の違いはそこなんじゃないかなと。

安田

あらためて、ESを目的に据えるのはなぜなのか、教えてもらってもいいですか?


藤原

端的に言えば、「会社がいくら儲かっても、全従業員の給与をどれだけ高めても、一緒に働く人を幸せにできないような事業には意味がないんじゃないか?」と気付いたからです。それで「従業員満足度」という言葉が徐々に信念になっていった。これは前回話したように、従業員全員に去られるというショックな体験が元になっているわけですが。

安田

そうでしたね。「俺は間違っていた」という思いから、新しい発想を得ようと本を読んだりセミナーに通った。そこで従業員満足度という言葉に出会って、やがてそれ自体が事業の目的だと思うようになっていったと。


藤原

はい。もちろんそれが事業目的のすべてではありませんが、明らかにその一つではあるなと。

安田

なるほど。でも、そういう意味では、「業績を上げるためにESも上げる」という一般的な企業の考えも、別段おかしくないように思いますけれど。


藤原

それはそうなんですが、でも経営者の感情の根っこに「これは業績アップのためだ」「自分が豊かになるためだ」みたいな考え方があると、やはりどこかで従業員に見透かされると思います。

安田

確かにそうかもしれませんが、そもそも会社って何のために存在するのかと言えば、利益を追求するためですよね。そう考えるなら、ESを手段として考えるのはむしろ当然な気もしますよ。


藤原

恐らくそれが、「私が言うES」と「一般のES」の大きな差なんだと思います。私はもはや、利益を最終目的には考えていないんです。ES向上の方がより上位の目標で、利益とかお金というものは、むしろそれを達成するための手段だと考えているわけです。

安田

ははぁ、なるほど。そこが一番のポイントなんでしょうね。でも、日本に限らず世界中の経営者でそういう考えを持っている人は少ないだろうなぁ(笑)。


藤原

そうでしょうねぇ。上場企業なんかは特に、株主の意向を考えないといけませんし。

安田

「うちの会社の従業員満足度は最高です!利益はまったく残っていませんが……」なんて株主総会で言ったら、即クビですよ(笑)。


藤原

笑。私もそういう世界があることは否定しませんし、経営者全員が私のような考え方をする必要もないと思ってます。ただ、「どうしてうちの会社はうまくいかないんだろう」と悩んでいるなら、「ES向上を目的のひとつにしてみると変わるよ」と言ってあげたい。

安田

なるほどなぁ。実際、世の中的にも藤原さん的な方向に進んでますよね。「お金がすべて!」という時代は過去になりつつある気がします。


藤原

そうですね。でも個人的には、時代が変わったわけではないと思ってるんです。本当はみんな昔からそうだったんですよ。

安田

と言うと?


藤原

「お金がすべて!」「お金だけが目的!」そう言ってはいたけれど、じゃあなんでそんなにお金が欲しいの?と。それをどんどん突き詰めて抽象度を高めていくと、結局は「幸せになるため」なんですよ。それっていつの時代も同じじゃないですか。

安田

ああ、そう言われてみれば確かにそうですね。そもそも国だって企業だって、人々を幸せにするために考えられた仕組みですもんね。そしてお金はそのための手段だった。それがいつの間にか、お金自体が目的にすり替わってしまっていたと。


藤原

ええ。だから本来、会社に入って仕事をするのも「自分の幸せを追求するため」なんです。でも当然のように「お金を稼ぐため」になってしまっている。お金が目的になっているから、もっと高い給与をくれる会社が出てきたらそりゃ転職しますよ。

安田

そうですよね。鶏が先か卵が先か、の話になっちゃいますが、会社が業績・利益のことしか考えないから、従業員も自分の給与にしか興味がない。「だってあなたたち金のことしか考えてないでしょ」とお互いが思っている感じですよね。そんな状況では、関係がドライになっても仕方がない。


藤原

その通りだと思います。私としてはそこで会社が「先」になるべきだと思う。まず会社側から「お金そのものは目的じゃなくて、目的は従業員一人ひとりの幸せなんだ」と考えなければならない。

安田

なるほどなぁ。藤原さんの強い信念を感じます。とはいえ、それを実践するのってかなり難しいことですよね。本気でやるなら、社長自身も「お金より従業員満足度」という価値観にならないといけないわけで。


藤原

ええ、ですから最初の入口として、「業績アップのためのES向上」を掲げるのはアリだと思うんです。実際にESに取り組む中で、少しずつ新しい価値観を見つけていけばいいんじゃないかと。

安田

なるほど。そうやって変化していかないと、会社と従業員との関係性はいつまで経っても「金の切れ目が縁の切れ目」のままだよと。


藤原

はい。私のように金が切れてないのに縁が切れてしまい、従業員が全員去ってしまう場合もありますけど(笑)。

安田

確かに(笑)。従業員も決してお金だけで会社を選んでいるわけじゃない。


藤原

その通りです。そもそもお金だけじゃ従業員を引き止めることはできないんです。それを経営者の皆さんに理解してもらいたいんですが、なかなか難しいですよね。

安田

「金がすべてだ!」という社長のもとには、それに共感する従業員が集まっちゃったりもしますからね。


藤原

ある意味では、それもESの一つの形かもしれない。会社はお金だけを提供して、それ以外は従業員に一切提供しない。その価値観に人が集まって、満足させられるのなら、それはESが成立しているわけで。

安田

なるほど。そのケースも数ある内的報酬の一つとして捉えることできると。奥さんによっては、「思いやりとかどうでもいい。お金さえたくさん貰えれば幸せ」っていう人もいますからね(笑)。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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