第13回 従業員満足度を下げる感情との向き合い方

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第13回 従業員満足度を下げる感情との向き合い方

安田

藤原さんは「従業員満足度を下げる四つの本質」という小冊子を出されていますが、今回はその内容についてお聞きできればと。


藤原

ありがとうございます。これは「内的報酬・外的報酬」「正論に気をつけよ」「朝礼と部会の違い」「信頼しているよ、という声掛けは意味がない」という<従業員満足度を下げる四つの本質>について書かせてもらったものです。

安田

個人的には「信頼しているよ、という声掛けは意味がない」が気になります。どうして「信頼してるよ」って言っちゃいけないんですか?


藤原

前提として「信頼」ってすごく便利な言葉なんですね。「君のこと信頼してるよ」と言っておけばいろんなことが丸く収まる感じがする。でも実際の仕事って、そんな単純でも曖昧でもないわけです。

安田

ああ、確かに。「信頼してるから、あとよろしくね」って言われても、「いやちゃんと説明してよ」となりますね。


藤原

そうそう。どんな仕事をお願いするのか、誰とどういう連携をとってほしいのか、そもそも何のためにこの仕事をするのか、ちゃんと伝える必要があります。その上で、「だから君が適任なんだ。君のこういうスキルや実績を信頼しているから」と、そういう順番なわけで。

安田

ははぁ、なるほど。つまり声がけ“だけ”では意味がないよ、ということなんですね。なぜ信頼しているのか、その背景や理由がセットでなければならない。


藤原

仰るとおりです。逆に言えば、その説明ができないということは、実は相手を信頼していないということになる。「信頼してるよ」という便利で簡単な言葉に頼って、安直にことを収めようとしているわけです。

安田

なるほどなぁ。そういう目的で「信頼してるよ」って言われても、実際ぜんぜん嬉しくないですしね。


藤原

ええ、それに人間の直感って意外と鋭いので、そういうのは雰囲気でわかっちゃうんです。「この人、テキトーなこといって俺を利用しようとしてるんだな」と(笑)。

安田

奥さんの機嫌が悪い時だけ「愛してるよ」っていう旦那みたいですね(笑)。普段は知らんぷりなのに、都合が悪くなるとそう言ってお茶を濁そうとする。


藤原

素晴らしい例えです(笑)。従業員満足もまったく同じで、とってつけたような言葉だけじゃ意味がないんです。

安田

なるほど。従業員満足も奥さん満足も共通していると。藤原さん、「従業員満足度研究所」だけじゃなく「家族満足研究所」もできるんじゃないですか?(笑)。


藤原

そんな、滅相もない(笑)。そんなものを立ち上げたら、妻の満足度は急落するでしょう。

安田

笑。ともあれ、旦那さんが奥さんの体調や機嫌を気に掛けたり、子供の進路を一緒になって考えたりする家庭って、やっぱりうまくいきますよね。会社経営者もそういう風に、家庭を守る家長のような振る舞いをすればいいんですかね。


藤原

確かに家庭と会社は共通する部分もすごく多いです。大きな違いがあるとすれば、会社には「ミッション」「理念」があるということですね。

安田

ああ、なるほど。それぞれ別の生き方をしていても問題ない家庭と違って、会社だと従業員全員でベクトルを合わせなければならないと。


藤原

仰るとおりです。そうやってベクトルを合わせるのが大前提で、その先に従業員個人の目標や要望などがある。ミッション・理念をおざなりにして個人の想いにフォーカスしてはいけないんです。

安田

ははぁ、確かに。なんでもかんでも従業員の言う通りにしていては、会社が崩壊しちゃいますもんね。ちなみにそういった考えは採用の面でも意識されていますか?


藤原

もちろんです。仕事に対する価値観が合っているか、カルチャーフィット(企業文化や風土がマッチしている状態)できそうかは、すごく意識しますね。とはいえ人間は変わっていくものなので、入社後に志向が変わることも想定していますけれど。

安田

つまり面接では「営業がしたいです」と言っていたのに、入社させてみたら急に「マーケティングをやりたい」と言い出すみたいな。


藤原

そうそう。大なり小なりそういう変化は起きるので、あまり目くじら立てず柔軟に対応したいところです。状況的に可能なら「じゃあマーケ部に異動する?」みたいな話をしてもいいですし。

安田

なるほどなぁ。ある程度のバッファを設けておくわけですね。ではちょっと話を戻して、「従業員満足度を下げる四つの本質」の中からもう一つ。「正論に気をつけよ」というのがあるんですが、これはどういうことですか?


藤原

これもすごく重要なんですよ。「正論」ってね、実は全然万能じゃない。

安田

と言いますと?


藤原

基本的に正論って、感情の前では無力なんです。いくら内容が正しかろうが、必ず従業員を納得させられるわけじゃない。

安田

確かに、他のいろいろな要因も絡みますしね。いつもサボっている社長に「給料を払ってるんだから必死に働け」と言われても、「お前には言われたくない!」となってしまいそうですし。


藤原

そうなんですよ。ですから従業員に対して正論を説くって、非常に怖いことで。でも経営者って割と正論を振りかざしがちなんですよね。だからこそ気をつけなければならない。

安田

毎日毎日正論ばかり説かれていたら、確かに従業員満足度は下がりそうです。


藤原

ええ。でも経営者からすると「なんで正しいことを言っているのに伝わらないんだ」「どう考えても私が言っていることの方が正しいのに」となってしまう。実際、お付き合いのあった経営者さんにそういう相談をよく受けてましたから。

安田

また家庭の話にしてしまってすみませんが、まるで離婚のときの話みたいです。


藤原

ああ、似てるかもしれませんね(笑)。

安田

SNSを眺めていると「給料も人並み以上に稼いで、子育ても幼稚園の送り迎えもして、家事だって手伝ってる。なのに奥さんに文句言われるのはおかしい」みたいな投稿を見かけます。確かにそれも「正論」なんですが、奥さんからすれば問題はきっとそこじゃなくて。


藤原

そうでしょうね。それ以外の部分にきっと何か理由がある。あるいはそもそも、旦那側に奥さんを労う気持ちがないのが原因なんでしょう。

安田

まさに正論は感情の前では無力ですね。


藤原

そうなんです。だからこそ、相手が何を感じているかにしっかり意識を向ける必要がある。今回お話しさせてもらった「信頼しているよという声掛け」「正論には気をつけよ」のいずれも、要するに「相手の気持ちを考えましょうね」ということです。

安田

そうですよね。「ロジックだけじゃなくて、感情にもちょっと向き合おうよ」ってことですよね。


藤原

ええ。結局、両方大切なんですよ。だけど多くの経営者さんが「感情との向き合い方」を軽視している。これからの時代、それでは会社経営は難しいと思いますね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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