第15回 「人間の成長」は努力の量ではない

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第15回 「人間の成長」は努力の量ではない

安田

今回は、「従業員満足度研究所株式会社」の代表である藤原さんに「人間の成長について」お伺いしたいと思います。


藤原

ほう。仕事の根本的なところに行き着くような興味深いテーマですね。

安田

以前、藤原さんが人間の成長について「努力っていうのは量ではないんだ」と繰り返し仰っていて。そこには確信があるんだろうなと思っていたんですけれど。


藤原

そうですね。確信があるというか、自分に言い聞かせているという部分もありますけど。

安田

なるほど。でも普通の人って「成長は努力の量に比例する」って言いますよね。「だから若いうちはとにかく死ぬ気で働け」って。


藤原

確かに(笑)。私も若い頃は先輩からそう言われていましたし、がむしゃらに努力をした時期もありました。

安田

そうですよね。でも、そういうがむしゃらな努力では人は成長しないと。


藤原

もちろん量が必要ないと言っているわけではないんです。ただ、「量だけ」では一定のラインを超えることはできない。その先まで行きたいのなら、量だけでなく質にこだわる必要があるよ、と言いたいんです。そしてそのためには、「自らに課す欲求」を高めていかないといけない。

安田

「自らに課す欲求」……それはどういうことですか?


藤原

「自分はここまで成長しなければならない」「こういう人間にならねばならない」という自分自身に対する要求ですね。これが高ければ高いほど、努力の質が上がっていく。

安田

ああ、なるほど。言わば自分自身のビジョン、理想像のようなものですね。


藤原

仰るとおりです。「こうなりたい!なるんだ!」という強い欲求があると、自然とゴールから逆算するようになるんですよね。「ということは40歳までに課長になってなきゃいけない」とか、「だったら大学はこのレベル以上に入らなければならない」などと考えるようになる。

安田

ははぁ、なるほど。つまり努力が「手段」になるわけですね。理想像に到達するのが目的で、そこに至るための努力は、単なる手段に過ぎない。


藤原

そうですそうです。努力って、あくまでも目標を達成するための手段なんです。でも多くの人が努力自体を目的化してしまっている。結果、「毎日縄跳びを100回飛べばスポーツ選手になれるはずだ」というような根拠のない努力を続けてしまう。

安田

確かにそれは「スポーツ選手になれた自分」からの逆算ではないですよね。あくまで「頑張っていたらきっと夢は叶うだろう」という希望的観測に過ぎない。


藤原

そうそう。だからこそ自分に対する要求、つまりゴール地点・理想像の設定が大事なわけで。

安田

うーん。でも、20代でそれを明確に決めるのはなかなか難しいかもしれませんね。例えば筋トレをしている20代は大勢いると思いますけど、「ミスコンに出場するぞ!ボディビル大会で優勝するぞ!」と明確に決めてやっている人はほとんどいない気がします。


藤原

確かに現実的にはそうでしょうね。先ほども言ったように、ある程度のところまでは「量」をこなすことで到達できますから。それをやりつつ、徐々に目標=自分に対する要求を高めていければ問題ないと思います。

安田

なるほどなるほど。ちなみに私も藤原さんと近い考えなんです。年配の人たちが「とにかく量をこなせ! 行動量がすべてだ!」みたいに言うのを、「そうかなぁ」と違和感を覚えながら聞いていて。


藤原

まぁ、そう言いたい気持ちもわかるんですけどね。ただ、繰り返しになりますが量だけでは一定レベルを越えられない。

安田

そうなんですよ。だってその理屈が正しいなら、3年目の営業より20年目の営業の方がめちゃくちゃ売れてなきゃおかしいわけで。


藤原

確かに。でも全然そんなふうになっていない(笑)

安田

ですよね?(笑) だから藤原さんが仰るように、どこかのタイミングで自分自身のゴールを設定し、「質」にシフトチェンジしていかないといけない。そうしなければ成長はストップしてしまうと思うんです。


藤原

そうなんです。「何も考えず頑張る」ということを続けたところで、量が質に変化するとは思えません。

安田

そうですよね。物事はそんなに単純ではない。


藤原

おそらく成功者と言われる人たちも、最初はがむしゃらにやってたんだと思うんです。でも途中で「なぜこれをやらなきゃいけないんだろう?」って疑問を持った。そこであらためて、「自分はどうなりたいのか」「何のために頑張るのか」を自問して、自分への要求を達成するための努力を始めたんでしょう。

安田

なるほどなぁ。ちなみに藤原さんの仰る「質」というのは、「明確な目標に向かっているかどうか」が基準なんですか?


藤原

そうですね。たとえば「◯月までに売り上げを◯%アップさせる」というところまで明確ではなくても、「従業員にもっと喜んでもらうぞ!」みたいな漠然としたもので十分だと思います。目標の方向さえ決まれば、逆算の発想は自然と出てくるので。

安田

なるほど。ちなみに藤原さんはお子さんが3人いらっしゃるんですよね。こんなこと言いつつお子さんには「とにかくがむしゃらに頑張れ!」って言ってたりするんじゃないですか?(笑)


藤原

いえいえ(笑)、「がむしゃらに頑張れ」という教育は一切しなかったですね。「やりたくなかったらやらなくていい」「やりたいと思ったことをとことんやれ」と(笑)。

安田

すごいですね。でもそれで「学校の勉強は嫌だからやらない」ってなっちゃったらどうするんです? 0点のテストを持って返ってきたり。


藤原

別にそれでも構わないと思ってましたね。「やりたくないなら勉強しなくていい」「ゲームだけやりたいんだったらそうしなさい」と言ってましたから(笑)。ただ「なぜそれをやるのか、自分で考えながらやれ!」「自分で決めて、その責任も自分で取るんだ!」っていうのは口酸っぱく言ってました。

安田

なるほど。たとえゲームだろうが、「なぜそれをやるのか」を明確にしなければならないと。つまりこれも自分のビジョンからの逆算になっているわけですね。


藤原

ええ、仰るとおりです。ビジョンからの逆算が出きているのなら、別に勉強をしなかろうがゲームばかりしていようがまったく問題ない。そしてもちろん、ビジョンは自分で自由に描けばいい。誰かのマネをしなくたっていいわけで。

安田

なるほどなぁ。ちょっと今の話で思い出したんですが、旅行の楽しみ方ってタイプがわかれるでしょう? スケジュールを分単位で決めてみっちり予定を入れる人と、そういうのを何も決めない人と。それもビジョンの違いですよね。


藤原

まさにまさに。どちらが合っているとか間違っているとかではなく、ビジョンに対する手段としてマッチしているならそれでいいんです。

安田

そうですよね。知識や体験のインプットが目的の場合と、のんびり休息してリフレッシュすることが目的の場合とでは、“努力”の方向性も変わってくる。


藤原

そうですね。一人ひとりに合うやり方、合うタイプがありますから。ともあれ冒頭の話に戻すと、やっぱり「がむしゃらに量をやる」という方法から、徐々に「目標から逆算して質にこだわる」という方法に変えていくべきでしょうね。

安田

確かにビジネスで成功している経営者さんを見ていても、起業してすぐはひたすら量をやって、だんだんと質にシフトしている感じがしますね。


藤原

その通りだと思います。

安田

まぁそういう意味では、自分自身が量→質と変化してきたくせに、従業員に対しては「がむしゃらに量をこなせ」って言うのもどうかと思いますけどね(笑)。まぁ、自分もそうやって成長してきたから、同じようにやってみろってことなんだとは思うんですけど。


藤原

あるいはご自身では気付いていないのかもしれません。自分自身の変化って、意外とわからないものですから。

安田

なるほど、確かにそんなケースもある気がします。「自分自身はどうだったんだろう?」と自問自答してみるのも大切ですね。


藤原

そうそう。私自身もこの従業員満足度研究所をやりながら、「仕事は考えながらやろう」とよく言っていますね。考えながらやった方が絶対に成長できますから。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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