第6回 社員の給与はどう決めるべき?

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第6回 社員の給与はどう決めるべき?

安田

今回のテーマは、社員満足度に大きく関わってくる「社員の給与」についてです。経営者にとって、社員の給与ってけっこう頭を使うところですよね。


藤原

仰るとおりですね。給与制度をどうするか、あるいはその仕組みをどこまでオープンにするか、とか。

安田

ああ、まさにそのあたりを聞きたくて。というのも、最近は仕組みどころか全員の給与額までをオープンにする会社が出てきているらしくて。つまり、同僚や先輩の月給やボーナスが丸わかりと言うわけです。そこまでやっていいものですかね?


藤原

う〜ん、結論から言えば、それはちょっとやり過ぎな気がしますね。もちろんそういう会社さんがあってもいいし、社員さんたちが納得しているなら何ら問題はないと思うんですけれど。

安田

ふ〜む。ということは、藤原さんの会社では給与やボーナスを全社員に公開するようなことはないと?


藤原

ええ、これまでしたことはないですし、今後もないんじゃないでしょうか。

安田

それはなぜなんです? 従業員満足の専門家としてのご意見をぜひ伺いたいなと。


藤原

端的に言えば、「従業員の感情面を考慮して」ということですね。基本的に従業員って、みんな「自分が一番頑張っている」と思っているものなんです(笑)。だから同じ仕事をしている人が自分より給与が高かったら、ちゃんとショックを受ける(笑)。

安田

ああ、なるほど。確かに自分が一番可愛いですからね(笑)。さらに言えば、やっぱり全員が「こんなに頑張ってるのに、なんでもっと給与が上がらないんだ」とも思っている(笑)。


藤原

そうそう(笑)。でもそれが人間ですから。そういう感情は誰だって持つわけで、だから給与額をすべてオープンにするというのは、デメリットの方が大きいと思います。

安田

なるほど。ちなみにそのデメリットって具体的にはどういうことですか? 給与を社内でオープンにすると、どんなことが起こるんでしょう。


藤原

そうですね。先ほども言ったように、「給与を全オープンにしている会社」だと社員が予め知っていて、それに納得しているなら問題はないと思います。むしろ従業員満足度は高まるかもしれない。ただ、例えば入社後に制度が変わった場合、それが原因で人間関係が悪化することが考えられます。そうなれば、あらゆる面に悪影響が出てくる。

安田

確かにそうですよね。チーム内で疑心暗鬼になっていたら、いい仕事ができるはずがない。


藤原

ええ。もしかしたら「評価基準が明確で、それが周知されているならいいのでは?」と言う人もいるかもしれませんが、中には「数字だけで評価されること」自体を嫌がる人もいる。もちろん同じ意味で「数字だけで評価してもらったほうがいい」という人もいるわけですけれど。

安田

ああ、なるほど。要するに「いろんな人がいる」ってことですね。だからこそ簡単にオープンにしてはいけないと。


藤原

ええ。そしてこれは、評価する側、つまり経営者側にも同じことが言えるわけです。

安田

ん? どういうことですか?


藤原

つまり、経営者の性格によっては、数値よりも感情優先の評価をする場合があるってことです。つまり、「数値で見れば明らかにAさんの方が高評価なんだけど、ムードメーカーで社内を明るくしてくれるBさんの方に高い給与を渡したくなる」みたいなことがあるじゃないですか。

安田

ああ〜、ありますね(笑)。私自身にも覚えがあります。とはいえ、社員から見たらそんなの納得いかないですよね。「なんで社長の好みで給与を決められなきゃいけないんだ!」って。それでいうと最近思いついたアイデアがあるんですけど。


藤原

と言いますと?

安田

AIに評価させたらどうだろうっていう。何をどれくらい評価するのかっていう設定は必要でしょうけど、社長のさじ加減で決められるよりいい気がするんですけど。


藤原

ああ、なるほど。評価制度にAIを組み込むのはアリかもしれませんね。もうそういう時代ですしね。

安田

そうですよね。実際、もしいま政治家が「国の維持のために保険料を倍にします!」と言ったら、絶対大炎上ですよ(笑)。でも「すごい知能を持ったAIが出した結論です。そうしなければ何年後に国が滅びるそうです」と言われたら、受け取り方は変わってくる。


藤原

確かに(笑)。将棋なんかの例を出すまでもなく、既にAIは人間を凌駕する存在になっているわけですもんね。ただ、かといってAIにすべてを委ねて、それで豊かな社会になるかと言われると、私はかなり懐疑的です。

安田

ほう、そうですか。それはなぜ?


藤原

計算なんかをやらせたら、そりゃ人間はAIに敵わない。でも、感覚とか感情という面では、やっぱり人間の方がまだまだレベルが高いと思う。たとえばAIが「計算した結果、博物館や美術館は不要という結果が出ました」と言い出しても、すんなり賛同できますか?

安田

ああ、確かに賛同できませんね。芸術的価値などは、まだ人間にしか判断できないものかもしれません。


藤原

ええ。そして人間が関わる以上、仕事の中にもそういう「数値では表せない価値」が絶対に存在する。私はそう考えているので、従業員の評価を完全にAIに任せたり、あるいは給与額をオープンにすることに、全面的には賛成できないんです。

安田

なるほど。でも逆に言えば、人間しかわからない部分は人間が評価して、それ以外はAIに任せる、みたいなこともできるってことですかね。ハイブリッド式というか。


藤原

ああ、それなら可能かもしれませんね。というか、今後の企業はそういうスタンスで制度設計をしていくべきかもしれません。AIに任せて効率化する部分と、人間がアナログに関わる部分とを分けて考える。

安田

そうですね。給与をオープンにするかという話も、0か100かで考えるのではなく、「給与の中のこの部分は公開」「この部分は非公開」とわけてもいいのかもしれない。


藤原

それもよい考えだと思います。上手にやれば従業員満足度も上がりそうですし。いずれにせよ社内制度を作ったり変えたりする時は、従業員満足度を指標に置いてもらいたいですね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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