その105 スマートウォッチと腕時計

たとえば、ある人がファッションについてどんなに詳しくなっても、
そこで得た知識をもって
ファッションが実生活にまるで役に立たないという事実を
変えることはできません。
趣味というのは本質的にそういうものです。

腕時計も、そんな現実世界で役に立たないジャンルのひとつとして
長年一部の人間を楽しませている分野ですが、
近年ではスマートウォッチの出現によって
揺さぶりが起こっています。

10年くらい前に腕時計の愛好家がよく使っていた言い回しは、
「スマホがあるから腕時計などもういらない、ということは決してない」
というものです。
いわく、ビジネスパーソンを念頭に置いた社会人として、
時間を知るためにわざわざスマホを取り出すことはスマートでないだけでなく
礼を失しない立ち振る舞いとはいえない、という論でした。
ようは、毎日スーツを着ている仕事なら適当な腕時計もつけているべき、という、
好きなものを押し出すためにかなり無理をした「あるべき論」なので、
個人的には
「マナー講師かよ…」
と思っていたのですが、
近ごろではそんな物言いもさっぱり見なくなりました。

理由はいろいろありましょうが、
現実的には腕時計にまったく興味がない人々が
スマートウォッチに流れたことが大きいのではないかと思われます。
「腕時計をつけろ」といっていたところへ
「腕時計的なモノ」はたしかに多くの人がつけているわけですから。

しかし、スマートウォッチは腕時計と相容れないものではあります。
その差異とは端的に
「スマートウォッチには目的があり、腕時計には目的がない」
ことです。
ちゃんと使いこなせるかはまた別として、
スマートウォッチはどんなオシャレな外観であっても
通知やヘルスケアなどのためのデバイスでしかなく、
一方、腕時計には一切の目的というものがありません。
見た目がすべてです。

目的がないと断言してしまうのは偏見でもなんでもなく、
腕時計において針が動いて時間表示をするという動作は
立派なスーツを着た男が昼間に働いているフリをしているようなものです。

その証拠に、お高い腕時計をつけている人で、
自分の手元を長時間見ていた人が手首から目を離した瞬間に、
時間を聞いてみるといいのです。

そうすると、けっこうな割合で時間を覚えていませんので。

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

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