GlobalPicks 〜海外の情報を読み解いて、ビジネスに付加価値を投薬する方法〜 著者:小出 紘道
前回に引き続き、Basisが発表した「The Gen Z Brand Radar 2026」を取り上げます。このレポートでは、Z世代がブランドについて語る会話を6つのSignalに分類し、それぞれ異なる観点からブランドの「文化的な勢い」を捉えています。
今週の記事はこれ。
The Gen Z Brand Radar 2026
(Z世代ブランド・レーダー2026)
https://basisglobal.co/intelligence-hub/the-gen-z-brand-radar-2026/
改めて6つのSignalを並べると、次の通りです。Signalは「指標」とか「観点」というイメージです。
Signal.1 The Verdict(評決/そのブランドは信頼できるか)
Signal.2 The Drop(新作投下/今すぐ注目したいか)
Signal.3 The Edit(選別・編集/長く残す価値があるか)
Signal.4 The Remix(再解釈/自分らしく使いたくなるか)
Signal.5 The Crowd(仲間・コミュニティ/人にも薦めたいか)
Signal.6 The Moment(文化的な瞬間/その場に参加したいか)
前回はSignal.1の「The Verdict」を見ました。ブランドが発信するイメージではなく、生活者が商品や価格、レビューなどを「検証」した結果、そのブランドを信頼できるかどうか、という指標でした。
今回は「Signal.2 The Drop」を見ていきます。
Signal.2 The Drop(新作投下/今すぐ注目したいか)
Is this brand culturally urgent?
Limited releases. Collaborations. Countdown moments. FOMO takes hold when brands create moments worth showing up for. Momentum spikes fast and fades faster.
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このブランドは、文化的に「今すぐ注目すべき」存在なのか?
限定発売。コラボレーション。発売までのカウントダウン。ブランドが「その場に立ち会う価値のある瞬間」をつくると、FOMOが生まれます。勢いは急激に高まり、そしてさらに速く消えていきます。
「Drop」は、ここでは限定商品や新商品の「投下」「発売」というニュアンスです。限定発売やコラボレーションなどを通じて、「今チェックしないと乗り遅れる」「今買わないと手に入らない」と思わせるようなブランドの勢いを指しています。
FOMOは「Fear of Missing Out」の略で、「逃したくない」「自分だけ取り残されたくない」という心理です。
The Verdictが「このブランドは本当に信頼できるのか」をじっくり検証する指標だったのに対して、The Dropはかなり対照的ですね。「今、この瞬間に欲しいか」「今、参加したいか」という“直近性”がポイントになります。
限定商品、ブランド同士のコラボ、発売日のカウントダウンなどは昔からあるマーケティング手法ですが、SNSの時代になって、その効果がさらに増幅されているように思います。単に商品を発売するのではなく、「発売そのものをイベント化する」ことで、商品を手に入れることだけでなく、その瞬間に参加すること自体に価値が生まれるということですね。
一方で、レポートには「Momentum spikes fast and fades faster.」とあります。
勢いは急激に高まるものの、それ以上の速さで消えていくという指摘です。
The Dropは非常に強い熱量を生み出せますが、それだけで長期的なブランド力になるわけではないということだと思います。限定商品やコラボで一時的に大きな話題をつくれても、次の話題がなければ、その熱量はすぐに別のブランドへ移ってしまうということでしょう。
米国のThe Drop指標で1位となっているのは、前回のThe Verdictと同じくNikeです。
Nikeは米国の総合ランキングでも1位で、The Verdict、The Drop、The Remix、The Momentの4つの指標で1位となっています。「信頼できる」という比較的長期的な評価と、「今すぐ欲しい」という瞬間的な熱狂の両方を獲得している点が、Nikeの強さと言えそうです。
ここで面白い比較対象として、Patagoniaが挙げられています。
Patagoniaは米国の総合ランキングで5位、そして次回取り上げるThe Editでは1位です。長く使えること、価値観、品質といった面では非常に強いブランドです。
ただし、「The Drop」の指標では、PatagoniaはNikeやOff-WhiteのようなFOMOが生まれにくいため、トップにはならないということですね。
レポートでは、Patagoniaの勢いは「短期的な熱狂」ではなく「長期的な信頼」から生まれていると説明しています。長期的な信頼も「勢い」と表現できるのですね。
「長く使いたいブランド」と「今すぐ欲しいブランド」は、必ずしも同じではないということです。どちらが上という話ではなく、ブランドがどの種類の勢いを持っているのかを分けて見ることが重要なのだと思います。
さらに面白いのが英国です。
英国のThe Dropで1位となっているのは、Palace Skateboardsです。
はい、初耳です。。。
私がロンドンに住んでいた頃はそんなに見かけなかった(と思います、、、)
Palaceは英国の総合ランキングでは13位で、しかも6つのSignalのうち、登場するのはThe Dropだけです。それにもかかわらず、The Dropでは他ブランドを大きく引き離して1位になっています。
英国のZ世代にとって、Palaceは「信頼できるブランド」や「日常的に薦めるブランド」として幅広く語られているわけではありませんが、新作やコラボレーション、「今手に入れたいもの」という文脈になると、一気に存在感が高まります。
レポートでは、これを「concentrated momentum(集中した勢い)」と表現しています。
Nikeのように複数のSignalで強いブランドもあれば、Palaceのように一つのSignalだけで圧倒的な強さを持つブランドもあるということですね。
個人的には、ここがこのレポートの面白いところだと思います。
通常のブランド調査では「認知」「好意」「購入意向」などを総合的に評価しがちですが、実際の生活者の中では、「信頼しているブランド」「長く使いたいブランド」「今すぐ欲しいブランド」は必ずしも一致しません。
The Dropは、その中でも「今、この瞬間にどれだけ熱量を生み出せるか」を切り取った指標です。
そして企業側から見ると、The Dropで一時的な熱狂をつくることだけではなく、その熱量をThe Verdictの「信頼」や、The Editの「長く使いたい」、The Crowdの「人にも薦めたい」といった別のSignalにつなげていけるかが、長期的には重要なのだと思います。
「話題になること」と「強いブランドになること」は同じではないが、「強いブランドになるプロセスまたは方法論」としては重要だ、ということでしょう。
本業ビジネスでは「マーケティング&戦略コンサル」の仕事と、「高付加価値情報提供サービス」の仕事をしています。本コラムは後者の「高付加価値情報提供サービス」の初級編としての入り口となればいいな、と思ってます。世界の誰かが”既にかなり研究したり、結論を出している”にも関わらず”日本では流通していない数値情報や文字情報”がたくさんあります。それらの情報を、日本のマーケットにフィットするように編集・分析すれば「競合他社」や「競合他者」を出し抜ける可能性が高まります。法人向けのサービスとなっていますので、詳細はFace to Faceでお伝えしますね。

小出紘道 (HIROMICHI KOIDE)
◆株式会社シタシオン ストラテジックパートナーズ 代表取締役社長 http://citation-sp.co.jp
◆株式会社シタシオンジャパン 取締役会長 http://www.citation.co.jp
◆株式会社 イー・ファルコン 取締役 http://www.e-falcon.co.jp
<いわゆる経歴>
・2000年 株式会社東京個別指導学院に新卒で入社して、11ヶ月だけ働いてみた(→早めに飽きた) ・2001年 イギリスに行って、University of Londonで経済と国際関係を学んだり、Heriot-Watt Universityで経営学(MBA)をやってみた(→めちゃくちゃ勉強した)。この間に、イギリス人の友人とロンドンで会社を作ってみた(→イマイチだった) ・2003年 シタシオンジャパン社でマーケティングをやり始めてみた(→ろくにエクセルも使えなかった) ・2007年 シタシオンジャパン社の代表取締役社長になって経営をやってみた(→やってみてよかった) ・2018年 シタシオンジャパン社の社長を仲間に託し、引き続き会長としてコミットしつつも、シタシオンストラテジックパートナーズ社を設立してみた(→今ここ)
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