「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第11回 「お金に囚われているのは誰」
前回第10回「マストで生きないために」では、しなければならない、と思っていると自分の声に耳を傾けなくなる、という話から、考える教育について過去をさかのぼりました。
前澤さんの「お年玉企画」って、話題になったんですけど。知ってます?
ゾゾの前澤さんですよね。知ってます、知ってます。
100万円を100人に配って、合計1億円。メディアでの評判はかなり悪かったですけど。下品だとか。泉さんはどう思いますか?
ああいう選択もありかなと、私は思いましたけど。
どういう意味で、ありなんですか?
SNSを使えば、ああいうふうにお金の循環ができて、それでみんながウィンウィンになっていく。
でもネガティブなイメージを持ってた人も、たくさんいました。
何に対してネガティブなんですかね?
ひとつは「金でフォロアーを買った」という行動に対して。あれでTwitterのフォロアーがすごく増えたんですよ。
10倍くらいになったんでしたっけ?
50万人が600万人になったそうです。それと、金持ちがお金をばら撒いて「庶民ども拾え」みたいな態度が下品だと。
そう言われると確かに下品に感じますけど(笑)。私は基本的に「低俗なものと低俗じゃないものもが混濁してる状態」が理想だと思ってますから。
どうやら前澤さんご本人は「お金を世の中からなくすこと」が目標らしいんですよね。
そうなんですか?
彼曰く「お金が諸悪の根源で、お金をなくすためには大きな影響力が必要で、そのためにはまず金を稼がにゃいかん」っていう順番らしいです。
そういう観点から、手段としてああいうことをやってると?
たぶん、そうなんじゃないですかね。
じゃあ、プロセスなんですね。前澤さんにとっては。
世間では「金の亡者」みたいに言われてますけど。「お金にこだわりがない」からあんなことが出来るとも言えます。
なるほど。世間の評判と真逆に真理があると。
あれを「いやらしい」と感じるのは、お金を特別視してる人だと思うんですよね。
そういう見方もできますね。
だって、あれがお金じゃなくて餅とかだったら、何とも思わないわけじゃないですか。
ボンカレー1年分とか。
そう。でも現金だと「いやらしい」と感じる。そう感じ取ってる側にバイアスがかかってる気がするんですよ。
お金至上主義だと、そうなるんでしょうね。お金に対するいろんな感情が入ってるから。
やっぱ、そうですよね。
前澤さんの会社って、社員はみんな同じ給料でしたよね?
はい。その通りです。
ちなみに共産主義は、「平等」という正義だけじゃなく、「金持ちに対するひがみ」もエネルギーになって生まれたんですよ。
ひがみですか?
はい。ひがみのエネルギーを原動力にしちゃったので、うまくいかなかった。
新しい理論ですね。
「ひがみ」は権利欲の裏返しなので、共産主義化してもヒエラルキーができて階級制ができちゃった。
階級制が良くなかったということですか?
だって「言ってること」と「やってること」が違うじゃないですか。ぜんぜん平等じゃない。
だから崩壊したと?
一番大きな理由は、ひがみ根性だと思います。
共産主義は「やっても、やらなくても一緒だから、みんなやらなくなった」って言われてますけど。
いや、それはちょっと違うと思います。ベーシックインカムにして、市場原理をちゃんと残しておけば、みんな一生懸命やったと思います。
やっぱり、競争も大事ってことですか?
競争したい人は、すればいいって話です。競争も選択肢のひとつにすぎない。
競争しながら生きていく人がいてもいいし、競争が嫌いな人は競争せずに生きていってもいい。
そういう選択肢があることが大事。共産主義は、競争したい人もいるのに競争させない。
ヒエラルキー内での「出世競争」は、あったんじゃないですか?
ありましたけど、それは意味がない。平等と言いながら平等じゃなかったから。
じゃあ、どういう仕組みが良かったんですか?
正義感からくる理想論だけじゃなく、もっと人間の「低俗なる思い」みたいな感情を、大事にしたほうがよかったと思います。
低俗なる思い。難しいですね。
楽がしたいとか。
「ひがみ根性」は低俗なる思いじゃないんですか?
それは歪んだ思いですね。
歪んだ思い?
貧乏でも爽やかな貧乏人もいるわけですよ。周りの人に対して、嫉妬したりひがんだりしない。
共産主義は、ひがんでる人が多かったんですか?
革命を起こすエネルギーが必要だったので、「ひがみのスイッチ」をオンにしてしまった。
その「ひがみ」って、金持ちに対するものでしょ?
そうです。
だから革命によって、格差をなくそうとしたんですよね?
そうです。
なのに、なぜまたヒエラルキーができちゃうんですか?矛盾してますけど。
劣等感をエネルギー源にしたからですよ。
劣等感でやったから?
劣等感が原動力ということは、優越感がほしくてやってる。
じゃあ、下にいた人が「下が悔しいから、自分が上に行ける新しいヒエラルキーをつくった」ってことですか?
そうです。ただ、それだけの話。
じゃあ「みんなが平等に」っていう理想は?
それは味方を増やすためのスローガンですね。
単なるスローガン?
みんなが平等っていう「理想論」は凄く耳当たりがいいし、大多数の人たちは貧乏なので味方にできる。
なんと!目的は平等ではなく優越感だったと?
劣等感と優越感はコインの裏表なんですよ。だから劣等感をエネルギーにすると、必ずそうなります。
ZOZOTOWNも共産主義的な発想なんですかね?
違うと思いますよ。人の健全なる低俗な思いを大事にしてるように感じますね。
彼曰く「人を評価する」って行為が、そもそも無駄だと言うんです。
ほう。それは面白い。
普通の経営者って、社員同士で競争させるのが好きなんですよ。
でしょうね。
でも彼は「社内での競争」とか「人の評価」とかが無駄だと。その分働いたほうが生産性が上がるし、みんな早く帰れると。
評価制度をつくる大変さ、運用する大変さ、不平感や不満への対応。このエネルギーをゼロにしたら、ものすごい楽ですよ。
それを実現してるみたいですね。
いいことじゃないですか。
でも、どうなんですかね。評価が一定でも、人って頑張るものなんですか?
ビジョンに共感してて、一緒に働きたいという仲間がいて、普通に暮らしていける収入がある。「それだけですごく幸せ」って人が集まってるんじゃないですか。
きっと、そうなんでしょうね。「競争嫌いで、人と比べられずに、好きなことをやりたい」という人にとってはいい会社。
めちゃくちゃいい会社じゃないですか。
でも、競争して「ヒエラルキーのトップに行きたい」っていう人には向いてない会社。
そういう人は、競争できる会社に行けばいいんですよ。
じゃあ、働き方とか生き方によって、選択肢が多いほうがいいってことですね。
自分で選べることが、いちばん大事。だから選択肢の多い社会に変わりつつある。
じゃあ、お金も「すごく崇高な使い方」をする人もいれば、「すごいくだらない使い方」をする人もいていい。
それでいいんですよ。
前澤さんも、お年玉を撒きたければ撒けばいい?
みんな自分がやりたいようにやったらいい。
でも世の中の人って、ああだこうだ言うじゃないですか。下品だとか、気分が悪いとか。
言いたい人は、言うことが目的なんですよ。
言うことが目的?
はい。
でもそういう人って、増えてませんか?
昔は「ものを申す場」って公の場しかなかったので。今はインターネットという場所がありますから。
昔は、ある程度「発言を許された人」しか、マスとかに向けて発信できなかったですもんね。
今は誰でもできちゃいますから。
じゃあ、発信することの地位も下がっちゃった?
ほとんどの発言は趣味みたいなもんですよ。
でも、ものすごく気にする人もいるみたいですよ。自分に対する書き込みとか。
他人の趣味は放っておけばいいんですよ。悪質な書き込みって「自分で自分の首を絞めてる」みたいなもんですから。
…次回へ続く…
2件のコメントがあります
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