「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第28回「リッチの定義が変わるとき」
前回、第27回は「我慢の限界」
GDPの時代が終わるって言ってましたよね?
はい。これからはGSCの時代です。
Pもなくなってる(笑)
(笑)
何の略なんですか?
Gross Social Capitalです。
それはどういうものなんですか?
社会関係資本というものの総和ですね。
社会関係資本っていうのは、泉さんが編み出した言葉ですか。
言葉は昔からあって、目に見えない信頼関係とか、人脈のネットワークとか、社会で生きていくための資本ですね。
それって数値化できるんですか?
今のところまだ数値化できてないですね。見えない資産なので。
じゃあ、少なくとも決算書には載らないし、それを担保に金は借りれないですね。
銀行はそういうものの価値がわかってないので。
企業ブランドみたいなもんですか?
そうですね。ブランドはソーシャルキャピタルのひとつです。
ブランド以外には、たとえばどういうものですか?
社員一人ひとりの信用とか、ネットワーク力を高める仕組みとか。
それは、フォロワーの多いWebサイトとか?
そういうSNS的なつながりもあるでしょうね。
今までだったら土地持ってるとか、金とか株を持ってるとか、そこに資産価値があったじゃないですか。
はい。今までは。
それが、えー……と、なんでしたっけ?GN……
GSC。
GSC。なかなか覚えにくいですね(笑)
(笑)
GSCになると、たとえばツイッターのフォロワーが何人とか、そういうのも資産価値になるってことですか?
そうですね。フォロワーの量と質、両方あると思います。
フォロワーの質ですか。
関係性というのは量だけじゃだめですよね。逆にすごくパフォーマンスが高い関係性であれば、数が少なくてもソーシャルキャピタルは高い。
それは最終的には数値化されるんですか?
何らかの形で見える化されると思います。
関係性が生み出す価値みたいなもんですよね。
はい。価値の総和ですね。
たとえば何かで困ってるときに、一声かけたらみんな来てくれるとか。
そうです。そんな感じ。
そういう人って、大企業でも出世できるんですかね。
たとえば人事部長になるには、一声かけたら「わかりました!」って言ってくれる人が100人いるのが条件とか。
なるほど。じゃあ会社の経営者にも、そういう資質が必要になってきますか?
そういう経営者がパフォーマンスを出しやすい社会になっていくでしょうね。
「給料出すから」ということで人が集まる時代は、だんだん終わっていくと。
「この人が一声かけてくれるんだったら、じゃあ手伝うか」みたいな時代になりますね。
そういう人がたくさんいる国が、リッチな国になっていくんですか?
何を「リッチ」と定義するかによりますね。
それ自体も変わるってことですか。
変わると思います。
GDPのときは「リッチ」の定義がお金だったじゃないですか。
GDPの場合は「お金をためる」とか「増やす」とか。そっちだった。
でもGSCは違うと。
はい。貯めるとか増やすとかではなく、逆に身軽になっていく。
身軽になっていく?
ものを持つ必要がないんですよ。関係性があるので。
??
「ちょっと俺、おなか減った」って言ったら、「いま鍋パーティーやってるよ」「じゃあ家に白菜あるから持っていくわ」みたいな。
それが理想の未来社会だと。
理想というか、そうなっていくだろうと。
たとえば、お金を持ってたら、友達がいなくてもうまい鍋が食えるじゃないですか。
食えますね。楽しいかどうかはわかりませんけど。
いや、楽しいですよ。お店行ったら「ハハーッ」っていう感じで最高級の肉とか野菜を用意してもらえて。後片付けもしなくていいし。
お金で得られる快感って、ひとつのラインしかないじゃないですか。
ひとつのライン?
お金持をってる人の上には、さらにお金を持ってる人がいて、その1本のラインしかない。
GSCは違うんですか?
関係性ってオンリーワンの関係なんですよ。私と安田さんの関係って、誰かと比べられることはできないじゃないですか。
まあ、そうですね。
1個しかないから特別なんですよ。そして特別感がいっぱいあるほうが、人間って豊かなんだと思います。
どっちが上だ、下だ、っていう快感は、本当の豊かさではないと。
常に比較し合ってる状態の中にいるので。そこから解き放たれると、まったく別の豊かさが手に入る。
じゃあ「あの人すごい」とか「うらやましい」とか「女の子にモテモテだ」みたいな優越感は、なくなっていくと。
なくなっていきますよ。だんだん変わっていく。
で、その社会関係資本を高めるには、どうしたらいいんですか。お金稼ぐスキルを身につけるのは、分かりやすかったんですけど。
獲得するとか、増やすとか、貯めるとかじゃなくて、与えるほうになる。
たとえば?
「わらしべ長者」みたいに、偶然会った人に「困ってたら、俺、手伝うわ」みたいな。
いきなり知らない人に与えちゃうと。
そう。そういうのをどんどんやってるうちに、社会関係資本となって返ってくる。
資本がある人って「やってあげる」というよりも「やってくれる人がいっぱいいる」っていうイメージなんですけど。
それはゴールですね。そうなるためには、まず与えまくる。
投資みたいなもんですか?「先にお金を使ったら、お金が増えて返ってくる」みたいな。
そうです。それがお金じゃなくて、相手のために何かやってあげたのが返ってくる。
そういう時代になるだろうと。
そうです。
それは何年後ぐらいなんですか?
その質問好きですよね(笑)
いや、そこがやっぱり重要なところなので。「500年後」とか言われても、誰も見向きもしてくれないんで。
10年ぐらいじゃないですかね。
早い!じゃあ10年後にはもう、それが普通になってると。
はい。社会関係資本という概念は、もう普通になっていると思います。
…次回へ続く…