変と不変の取説 第90回「裏の時代。目利きの時代」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第90回「裏の時代。目利きの時代」

前回、第89回は「離れる人類・近づく人類」

安田

「もともと日本は裏の国だ」って、泉さん言ってましたよね?

はい。

安田

あれはどういう意味なんですか?

たとえば芸能の世界とかは、裏がすごくあると思ってます。

安田

裏取引ってことですか?

いや違います(笑)裏方文化ってことです。

安田

なるほど。裏方が向いてる国だと。

はい。反対に欧米諸国は表の国ってことですね。

安田

「今後はそれが入れ替わっていく」って書いてましたよね。つまり欧米主導の時代が終わるってことですか。

「陽から陰に変わろうとしてる」ってことですね。

安田

裏がメインになる時代がくるということでしょうか。

そういうイメージです。白人が表舞台を仕切ってきた時代が終わろうとしている。

安田

どこでそれを感じるんですか?

たとえば黒人の人権問題で暴動が起きてますよね。ああいうのもその表れかなと思う。

安田

いまいち私にはイメージが湧かないんですけど。だってスポーツも、音楽も、科学も、芸術も、基本的には白人文化じゃないですか。ジャズとかもありますけど。

確かにそうなんですけど。なんかもう、みんな飽きてるんじゃないかなと思ってて。

安田

陽が極まって陰になるってことですよね。たとえば、どんなことに飽きてくるんですか?

たとえば……なんだろう。

安田

お金を稼がなくなるとか。会社に帰属しなくなるとか。

たとえば大統領になったら「ワー!」って、みんなお祭り騒ぎで大統領を担ぎ上げていくでしょ。ああいうのって「すごい嘘くさい」と感じる。何かのショーをやってる感じ。

安田

まあ一種のショーですよね。セレモニーというか。

同じショーをずっと見てたら飽きるのと一緒で、だんだん裏が見えちゃう。「嘘くさっ」っていうふうに、みんな感じるようになっていくだろうと。

安田

確か「コーチング」という仕事の悪口も書かれてましたよね。

(笑)

安田

あれは悪口ではないんですか。

いや、悪口ですね(笑)

安田

泉さんは実際に、アメリカにコーチングを学びにいったんですよね?

はい。プロのコーチが年に1回集まる大会があって。それに参加しました。

安田

コーチングというのはアメリカが発祥なんですか?

アメリカが発祥です。

安田

そもそもコーチングって何なんですか。よくわからないんですけど。

コーチングっていうのは、コンサルティングとカウンセリングの中間みたいなもので。

安田

個人が個人に対してやるものですか?

そうですね。基本的には個人が個人に対してやるもの。成功マインドみたいなものを身につけてもらうために、一緒になってメンタルのサポートをする仕事。

安田

アメリカでは精神科医とか心理学博士とかが、個人のカウンセリングをするじゃないですか。あれとはまた別ですか?

基本的には同じです。「メンタルを病んでしまった人」「どういうふうに自分の方向性を見いだしたらいいか分からない人」の伴奏者になっていく。日本では特にリーダー層が困っていてコーチをつけたりします。

安田

泉さんのコラムを読んでいて、私も共感する部分がありました。コーチって怪しいというか、おかしいなと思うことがよくあって。

怪しい人が多いですよね。

安田

「コーチングを受けて、私は人生を取り戻しました」って人とたまに会うんです。それ自体は素晴らしいことだと思うんですよ。

そうですよね。人をポジティブにする役割。それ自体はとてもいい仕事ですから。

安田

でもそれに憧れて、みんなコーチになろうとするじゃないですか。「私にもできる」みたいな。まさに泉さんが言ってるような「ネズミ講」的な仕組みというか。

まさにそこが問題なんですよ。

安田

「ポジティブに人を変える」というビジネスの会員を、増やそうとしているようにしか見えない。

まあ、そういうビジネスですよ。コーチを育てるスクールビジネスというか、資格ビジネスってやつです。

安田

資格ビジネスって、それ自体が目的化して実力が伴わないことが多いですよね。

一部は本物になっていく人もいるんですけど。資格ビジネスの目的がスケールさせることだと、どうしてもそういうふうになっちゃいますね。嘘くさくなっちゃう。

安田

人をポジティブにするのは素晴らしい仕事だと思います。ただそれと「コーチをつくり出す」というビジネスとは、ぜんぜん違うことのような気がする。

そうなんです。

安田

コーチの裾野を広げて「上に行けば行くほど稼げる仕組み」をつくろうとしているように見えちゃう。

私はそのカラクリが見えちゃったので、さっきも言った通り「もう飽きた」わけです。

安田

なるほど。

表が明るいと裏が見えちゃう。でも、じつは「裏道のほうに本当のおいしいお店がある」ってことに気づくわけです。

安田

じゃあ「裏」っていうのは、言い換えれば「本質」とか「本物」とか、そういうことですか。

はい。そのとおりです。

安田

昔からずっと愛されてる裏道の美味しい料理店みたいな。そういう仕事が今後増えていくってことですか?

あるいは、そういう店を見つけ出す目利きとか。仕事として増えてくるんじゃないでしょうか。

安田

顧客の成長も必要ですけど。「もっと安くしろ」とか「もっとサービスしろ」って文句ばかり言うし。しかもチェーン店で。

そこにリスペクトが必要になります。裏で一生懸命仕込みしたり、技術磨いて美味しい料理を作ってくれる人へのリスペクト。

安田

リスペクトして、ちょっとくらい高くても「ちゃんとお金を払わせてください」って言えたり。食べさせてもらったことをきちんと感謝できたり。でもそんな客が育ってるようには見えないです。

そういう人が育ちにくい社会なんですよ。

安田

どうやったら育つんですか?

だから師弟制度にしたほうがいいんです。お師匠さんが裏でやってる段取りとか、日々の研鑽であるとか、そういう「細部に神が宿ってる」ところを垣間見ないとわからない。

安田

「生き方が素敵だな」「かっこいいな」って思わせてくれる人が、身近にいるといいですよね。「ああ、俺もこういう生き方したいな」みたいな。

今はまだ資本主義の幻想が強すぎるんですよ。お金の優先順位が高すぎる。

安田

お金に向いているエネルギーが、もっと本質的なものに向かうってことですか。これからは。

そうです。そのスタートが目利きという仕事。

安田

もし目利きが増えたらどうなるんですか。

目利きが増えてきたら「スケールを目的に標準化したチェーン店」の業績が悪くなっていきます。

安田

外食ビジネスで「スケールしない」ってのは難しいですよ。上場という表舞台に立てなくなるので。

今はそれが表舞台だと思うんですけど、そこに価値がなくなってくる。

安田

江戸時代みたいに「仕事の細分化が進む」って予想している人もいますね。

私もそう思います。こだわりのあるスモールビジネス、スモール商店みたいなのが増えていく。そうやって、もうひとつのコミュニティができあがっていくんです。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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