第38回「商標出願の重要性~音声SNS『Clubhouse』の未来も予測しつつ~」

このコラムについて
世の中の情報は99%が「現在」または「過去」のものでしょう。たった1%の未来情報をつかめる人だけが、自分のキャリアやビジネスを輝かせるのです。でも、未来情報なんか手に入らないよ!と思ったアナタ。ご安心を。もしアナタが古い体質の会社に勤めているなら超ラッキー。そんな会社の経営者ならビジネスがハネるかも。

未来コンパスが、あなたの知らない未来を指し示します。

 38  「商標出願の重要性~音声SNS『Clubhouse』の未来も予測しつつ~」

嬉しいことに第35回の記事が好評でした(タイトル「商品は変えずに売上50%UP。知財を使ったその方法とは?」)。
「商品名が重要である理由が分かった」「ネーミングに予算を付けるように会社に提案したい」という嬉しい声が聞こえてきました。

あれ、でも待てよ!?私の本業である商標の重要性については、十分に伝わっていないかも・・・。
そこで、今回は商標を取らずに問題になった事例をご紹介します。「知財あるある」ですが、商標の重要性がよく分ります。


最近の話です。
2019年1月に表参道に1号店をオープンしたティラミス店「HERO’S」は、シンガポールの有名店「ティラミスヒーロー」(以下「本家」。)のパクりではないかとSNS等で話題になりました。
商品の特徴である「瓶詰」や「動物キャラクターを使っている点」が似ているだけでなく、HERO‘S側が本家のロゴをそのまま商標登録出願していたのです。

本家使用ロゴ HERO’S出願ロゴ
(商願第2017-161654号)

本家は、2013年から日本に進出していましたが、そのビジネスを商標で保護していませんでした。商標は早い者勝ち。HERO‘Sがロゴを2017年に出願し、2018年に登録が認められてしまいます。
それにより、本家はティラミスヒーローの名称やロゴを使用できなくなり、2019年よりブランド名を「ティラミススター」に変更せざるを得なくなりました。

こういったパクリ事例は中国ではよく耳にしますが、実際に日本でも起きています。ショックですが、これを教訓に自分たちのビジネスを守るしかありません。

商標は、自分でやれば10万円以内、弁理士に依頼しても20-30万円で登録できる場合が多いです。
他人に権利を取られると、せっかく築いたブランドを手放さざるを得なくなります。今回のように明らかなパクリの場合は、法的に対抗することが可能ですが(※)、それでも出願の何倍もの時間・費用・手間がかかります。
そう考えると、やはり商標出願をしておくのがベストでしょう。

(※)本家が登録異議申立てなどの法的手段を講じた結果、HERO’Sの商標権の一部取消しが認められています。他にHERO’Sが先取りしていた文字商標「ティラミスヒーロー」については係争中です。パクリ問題が炎上し、HERO’S表参道店は、オープン直後の2019年3月に閉店しましたが、法的な処理は続いています。

未来コンパスが指すミライ

ところで、音声SNS「Clubhouse」が、突然の大ブームになっているようです。

2021年2月2日時点の特許庁データによると、Clubhouseを提供するAlpha Exploration社による日本への出願はなされていません。商標でビジネスを守れていない状態です。

他方で、気になる出願がいくつか。
その一つとして、スウェーデンに住所を有する個人が、2020年6月にEU、アメリカ、日本などの複数の国を指定して、商標「clubhouse」を出願していました。商品は「インターネット経由によるソーシャルネットワーキングのためのアプリケーションソフトウエア」であり、音声SNS「Clubhouse」とバッティングします。

「clubhouse」は既成の言葉なので、たまたま(パクリではなく)内容が重なった可能性は十分にあります。Alpha Exploration社がサービスを開始する2020年4月までに出願しておけば・・・。
これだけ話題のSNSで、商標トラブルが発生している未来は見たくありませんが、嫌な予感がします。

 

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 この記事を書いた人  

八重田 貴司(やえだ たかし)

外資系企業/法務・知財管掌。弁理士。
会社での業務とは別に、中小・ベンチャー企業への知財サポートをライフワークとする。クライアント企業が気づいていない知的財産を最大化させ、上場時の株価を上げたり、高値で会社売却M&Aをしたりと言った”知財を使って会社を跳ねさせること”を目指す。
仕事としても個人としても新しいビジネスに興味があり、尖ったビジネスモデルを見聞きするのが好き。

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