中東で見つける小さなブルーオーシャン
第5回「サウジアラビアは中東でいちばん戒律が厳しいイメージです。ビジネスに支障ないですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

質問:サウジアラビアは中東でいちばん戒律が厳しいイメージです。ビジネスに支障ないですか?

たしかに戒律の厳しい国として有名ですが、実はここ数年でサウジアラビアは激変しています。
これまでは、映画の上映が禁じられていたり、女性が車の運転を禁止されていたりと、他の国では考えられないような規制がありました。
今は映画館ができていますし、女性たちが窓を開けた車で大きな音量の音楽を流しながらドライブする光景も何度か目撃しています。
徐々に規制が緩くなって、「開かれた国」になってきている印象です。
こういった事情はあまり知られていないため、もしもピンときたならチャンスかもしれません。

実際にビジネスをするにあたって、サウジアラビアならではのポイントを3つほど挙げてみましょう。

【輸出入の規制】

まず、アルコールや豚に関連するものは基本的に輸出できません。
しかし裏を返せば、それ以外なら可能性があると考えていいと思います。
食料品や薬品を海外へ売る場合、たとえばアメリカへ輸出するにはFDA(アメリカ食品医薬品局)の審査要件を満たす必要があります。
サウジアラビアにはそのサウジバージョンのSFDAがあり、また工業品ならSASO(サウジアラビア標準化公団)の定めた基準をクリアせねばなりませんが、こういった審査基準は他国でもありますから、もし既にアメリカやEUなどへ輸出されている場合、サウジアラビアにも出せる可能性は十分にあります。

【ハードな交渉(主に価格面で)】

商談に入ると、ニコニコしながら挨拶代わりに値切ってきます。
私の出身地である大阪も「値切り」で有名ですが、アラブ商人のそれは大阪と同等かそれ以上です。
いきなり原価割れの価格を提示し、ガツンとカマして来ることもあります。
揺さぶりも上手く、最初はうろたえるかもしれませんが、必要以上にあたふたすることはありません。
落ち着いて対応しましょう。
こちらの反応を見て遊んでるんじゃないのか? と思うこともありますが、サウジアラビアは他国に比べて娯楽の少ない国でしたから、ビジネス自体が娯楽の役割を果たしていた部分もあるのかも。
今後、規制緩和に伴ってそういう傾向は鳴りを潜めていくかもしれませんが、アラブ商人は交渉に強いと考えておいていいでしょう。

【お祈り】

時間が来たら強制的にお祈りタイムに突入します。
部屋でお祈りする人もいますが、近くのモスクに行く人もいます。
ハードな交渉が続いているときは、これに助けられることがあります。
お互いが一旦離れ、その間に次の一手を考えることができます。
格闘技でラウンド間にインターバルがありますが、ちょうどあのような感じで捉えてください。
たまにスポーツをしているような感覚になるときもあります。
彼らは彼らで、お祈りが終わるとスッキリして帰ってきて、考えがまとまっていたりします。
礼拝の各種所作により、軽いメディテーションのような効果がもたらされるのかもしれません。

商慣習は国や地域によって異なりますが、サウジアラビアも慣れれば面白いと思います。
また、規制緩和は国の方針ですから、今後も大きな流れはおそらく変わらないでしょう。
競合が少ない今のうちに、チャレンジされてはいかがでしょうか。


(写真:ビルの中のお祈りスペース)


 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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