中東で見つける小さなブルーオーシャン
第9回「イスラム金融では金利を取らない?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
イスラム金融では”金利を取らない”というのは本当ですか?
銀行はどうやって儲けてるんですか?

たしかに疑問ですね。普通、銀行は金利で儲けますから。

イスラム金融とはシャリーアと呼ばれるイスラム法に則った金融システムのことで、イスラムの教義・慣行に基づいて運営される銀行をイスラム銀行と呼びます。イスラム銀行には金融知識のあるイスラム法学者からなる諮問委員会が備わっており、ここの勧告に従って運営されますが、利子を取って金銭を貸すことはクルアーン(コーラン)で禁じられているので、イスラム銀行では利子を取ることができません。
では、どのように儲けているのか。

イスラム銀行には、イスラムの教義に反することなく、つまり利子を取ることなく利益を上げる形態がいくつか用意されており、具体的には次のような形があります。


【ムダラバ】
出資者が事業者に全額出資する。事業で得られた利益はあらかじめ決められた割合に応じて配当として配分される。

【ムシャラカ】
出資者と事業者が共同出資する。
両方が当事者となり、利益も損害も決められた割合で配分する。

【ムラバハ】
ある財を購入した原価よりも高い代金で転売する形。具体的には、出資者が事業者の代わりに設備や備品を購入し、手数料を乗せて事業者へ売る。差分が売却益となる。事業者は分割払いなどで支払いをしていく。契約時点で現物がある。

【イスティスナ】
ムラバハと同様の商品取引型だが、契約時点で現物がない場合に行われる形態。主に不動産建設などプロジェクト型の事業に適用される。

【イジャーラ】
いわゆるリース契約。銀行(貸主)が物品を購入し、顧客(借主)に貸与して、使用料を取る。


このように、あくまでも利子ではなく手数料や売却益という名目で利益を出します。また、銀行が自分で稼ぐほか、オイルマネーで潤った富裕者がイスラム銀行に多額の無配当預金をするなどしていますが、これによってもイスラム銀行は支えられているのでしょう。
これはイスラム教の「喜捨」の考え方に基づいていると思われます。

(↑Dubai Islamic Bank のウェブサイト)


イスラム金融というのは、一言でいえば、レート固定の利子ではなく実際に発生した損得を共有しようというもので、これはPLS(=Profit and Loss Sharing)方式と呼ばれています。ある研究者は、従来の伝統的金融システムが利子を取らないPLS方式に変われば、次のような好ましい変化が見込まれると言います。

 

  • 銀行は利子では稼げないので、顧客により魅力的な投資機会を提供するべく競争するようになる。
  • 預金に金利が付かないので、これまで貯蓄していた人が投資家へと変わり、お金を無駄な消費から生産性のある投資へと回すようになる。
  • 現在は貯蓄家と投資家の格差が大きいが、その不平等さが改善される。


(↑M.A. Hussein Mullick, Islamic Bank: An Emerging New Mode of ‘FINANZKAPITAL’ in the world より。上記は筆者要約)

イスラム金融では利子が発生しないために、これまで単なる貯蓄家/消費者から投資家へと変わり、従来の金融システムよりも経済が活性化されるのだ、という主張です。

この主張の是非はともかく、利子を考えなくていいので事業が失敗した場合のロスはわかりやすいように思います。リスクの計算がシンプルになる分、新規事業のスタートが増え、経済は活性化されるかもしれません。

現在イスラム教徒は世界中で増え続けており、その増加率はメジャー宗教の中でも一番です。今後は日本でも彼らと接点を持つ機会は確実に増えてくるでしょう。単なる友達ではなく、一緒にビジネスをするとなれば、イスラム金融に触れる可能性も十分ありますので、概要は知っておいて損はないと思います。


(↑イスラム教は世界の宗教の中で信徒増加率が最も高い。Pew Research Centerより

ところで、イスラム教では禁じられるようになった利子ですが、ユダヤ教では利子は認められています。同一神を崇拝しているにも関わらず、このような違いが出るのは興味深いですね。

 

参考:
・三菱UFJ信託銀行、イスラム金融の現状について https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u201608_1.pdf

 


 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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