第56回「アラブではコーヒーがビジネストレンドだと聞きましたが本当ですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブではコーヒーがビジネストレンドだと聞きましたが本当ですか?」

   回答   

はい、本当です。
特に大きな盛り上がりを見せているのは、サウジアラビアですね。
今回は、いまサウジで起こっているコーヒー関連の動きについてお話します。

【サウジのコーヒー業界で起こっていること】
サウジアラビア文化省は現在、『the Year of Saudi Coffee 2022』というキャンペーンを発表しています。
これは2022年を「サウジコーヒーの年」と位置づけ、サウジアラビアにおけるコーヒーの文化的価値を見直そうという普及活動です。
サウジの国策である『ビジョン2030』が掲げるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)プログラムの一環でもあり、大盛況のうちに幕を閉じたUAEの『ドバイエキスポ2020』のサウジアラビアパビリオンでもPRされていました。

つい最近では4月11日、GCC諸国で最大のシェアを持つ小売チェーンであるLuLu HyperMarket がサウジ文化省とコラボして、このプロジェクトに主要なプロモーターとして参加すると発表しました。


(↑プロジェクトのロゴ。LuLuは店舗でサウジ産コーヒーの試飲会を開催したり、リユースバッグやカップなどを販売したりしてコーヒーの普及活動を行う)

【なぜ今キャンペーンを?】
アラブを代表する文化の一つとして「アラビックコーヒー」があります。
アラビックコーヒーは軽く焙煎したアラビカ豆をカルダモン等のスパイスと混ぜたのち、粉末にしたものを煮出して飲みます。
もともと砂漠の遊牧民が来訪者をアラビックコーヒーでもてなす伝統があり、アラビア人のホスピタリティを象徴する文化でもありました。
この客人にアラビックコーヒーを振る舞う行為が、2015年には、UAE・サウジアラビア・オマーン・カタールの共同申請によりユネスコ無形文化遺産に登録されました。

また、コーヒーの語源はアラビア語でコーヒーを意味する「カフワ(Qahwa)」にあると言われます。カフワ、カフェ、カーフィー、珈琲…と発音すると、その関連性を感じることができるかもしれません。
このように、もともとコーヒーとの結びつきが強い地域なのです。


(↑我々日本人が普段親しんでいるコーヒーとは違い、漢方薬にも似た独特な風味があるアラビックコーヒー。慣れると結構クセになる)
(Slywire, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, ウィキメディア・コモンズ経由)

一般的にサウジアラビアがコーヒー生産国として連想されることは少ないですが、サウジ南部のジャーザーン州は『ハウラニ』という豆種が生産されることで知られており、その栽培の歴史は300年以上に及びます。
サウジアラビアには他にもブランド豆があるものの、いずれも世界的に知名度が高いとは言えません。
最近まで鎖国状態にあったためか、PRが不足していたことが要因として考えられます。
文化遺産として過小評価されている状態にあるとして、サウジアラビアのアラビックコーヒーを『サウジコーヒー』として普及させていく試みとしてキャンペーンが展開されているわけです。

【成長著しいコーヒービジネス】
アラブニュース(https://www.arabnews.jp/)によると、サウジ商務省は王国内でカフェを設立するための3万件のライセンス申請を受けているようです。
また、関連記事では「公式統計によればカフェやレストラン分野への累積投資額が2,210億サウジリヤル(約7.6兆円)に達し、年末までに8%の成長が見込まれる」とあります。
質問文のとおり、まさに成長トレンドにある産業だと言えるでしょう。

冒頭で述べたような国の後押しもしばらくは継続すると思われます。
コーヒー分野の産業推進として、栽培や流通部門へ政府による投資が行われています。
一例を挙げると、政府の支援により、2017年からの3年間で南部の主要生産地におけるコーヒーノキの栽培本数は2倍に増えました。
また、バリスタの研修なども行われているので、ビジネスの裾野はまだまだ広がっていくと考えられます。
さらに、冒頭のLuluの例のように、民間企業とのコラボも推進されていくのではないかと思います。

最近まで鎖国状態にあったからか、これまでのPR不足は否めませんが、その分大きな伸び代が残されているのです。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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