第13回 自然の中の心地よさを自宅でも。

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第13回 自然の中の心地よさを自宅でも。

安田
中島さんからお庭のお話を伺ううち、「そもそも庭とは一体何なんだろう?」という疑問が浮かんできまして。

中島
そうですか。改めて考えたら面白いかもしれないですね。
安田
例えば蟻や蜂は、人間と同じ社会的動物だと言われます。しかし、蜂の巣や蟻塚といった「家」は作るけれど、「庭」は作りません。

中島
確かにそうですね。熊やタヌキのねぐらにも、庭らしきものはありませんね。
安田
そうなんです。動物や昆虫は庭を作らない。そうすると、「庭」って実は自然と真逆の存在なんじゃないかと思えてきて。

中島

ああ、なるほど。確かにそういう見方もできるかもしれません。

安田
中島さんはお庭を作るとき、「自然」にすごくこだわられますよね。ただ、そういう意味で言えば、庭自体が「人工物」とも言えるわけで。そもそも中島さんは、なぜ「自然に近いお庭」を作ろうとするのでしょう?

中島
自然に近いお庭って、眺めているだけで気持ちが落ち着くんですよね。僕自身、気づいたら自宅の庭をじっと眺めていたりしますし。
安田
なるほど、そうなんですね。また少し違う視点かもしれませんが、庭って必ず自宅の敷地内に必要なんでしょうか。ニューヨークだったらセントラルパーク等がありますし、先ほどの昆虫の話だと、ある意味、巣の周りの自然を庭として使っているとも言えませんか。

中島

確かに、見ていて和むような街並みがあるのなら、わざわざ「ここは私の土地です」と区切って庭を作る必要はないのかもしれません。ただ、街並みを自分の自由にデザインすることはできませんよね。

安田

ああ、確かに。だから、自由にできる自分の土地に、自分が望む「自然」を創るんですね。


中島
そういうことだと思います。もちろん先ほどの「動物は庭を作らない」「庭は人工物である」というお話にもあったように、庭自体が「必ず必要なもの」だとは思いませんけれど。
安田
ふと思いついたのですが、動物園ってある意味で「庭づくり」に近くありませんか。それぞれの動物のための寝床があって、山や水浴び場があって。つまり人工的に自然を再現している。

中島
ああ、確かに庭の発想に近いかもしれない。
安田
動物たちも、無機質な建物に押し込められていたら、具合が悪くなっちゃうんでしょうね。同じ意味で人間にも「疑似自然体験」のようなものが必要なのかもしれません。

中島
なるほど。仰るとおりですね。「生き物としての本来の生き方」に近い環境を、本能的に求めてるんでしょう。庭づくりもその一つなのかもしれません。
安田
私は庭のないマンション住まいなので、特にそう思うのかもしれません。しかもコロナ禍以降は外出もほとんどしなくなって、運動したとしても1日30分くらいなんですよ。

中島

マンション住まいだと、どうしてもそうなりますよね。お庭があれば、「ちょっと外に出て気分転換」ということが気軽にできるんですけど。

安田
そうなんですよ。全く歩かないって身体に悪いなぁとつくづく感じているので、お庭があることは心身の健康にもつながるんだろうなと。

中島
僕もそう思います。昔の人もそういう意図があってお庭を作っていたのかもしれないですね。
安田
昔からお屋敷やお城には庭園がありましたもんね。

中島
ええ。かなり作り込まれているので「自然」ではないかもしれませんけど、木を植えたり水を流したり、自然の一部を取り込んではいますからね。
安田
そうですよね。ちなみに中島さんは、人工物と自然とのバランスはどのように決めるのですか?

中島
そうですね。全くの人工物では味気ないですし、かと言って野生のままの自然では荒々しすぎる。それらがちょうどよく調和するのが「自然に近いお庭」なんだと思います。具体的な数値では伝えられないのですが。
安田

そうでしょうね。その微妙な塩梅を見抜けるのがプロたる所以なのでしょう。ちなみに中島さんは、ご自身が作った庭以外で、好きな風景はあるんでしょうか。


中島
京都の古い街並みを散策するのがすごく好きですね。
安田
ああ、確かに落ち着く景色ですもんね。京都のような風情ある街並みなら、自宅のお庭が作り込まれていなくても成立するというか。
中島
そうですね。あとは山へ行ったり、川を眺めたり。滝を見るのも好きですね。
安田
ははぁ。そういう感性がお庭作りに活かされているわけですね。

中島
そうかもしれません。「山や川を眺めている時の落ち着く感覚を再現したい」という想いはありますね。
安田

自宅にいながら自然の中にいるような心地よさが味わえる庭、というわけですか。


中島
ええ。機能性や使いやすさも外せませんが、何よりも「住む方の心が和むお庭」を作っていけたらいいなと思います。
安田
中島さんの作るお庭が愛される理由がわかった気がします。次回はさらに「自然」と「お庭」について深掘りさせてください。

対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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