この対談について
庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。
第3回 庭に植えるなら常緑樹?落葉樹?
第3回 庭に植えるなら常緑樹?落葉樹?
「家に着せる衣服の仕立屋さん」として素敵なお庭を作ってきた中島さんに、今日は松のことを聞いてみたいなあと。
松ですか。わかりました。
というのも私、「日本庭園と言えば松」というイメージがあるんです。中島さんも京都でお仕事を覚えられた方ですから、やっぱり松を手入れしたり、植えたりする機会は多かったんじゃないかなと。
そうですね。多かったです。安田さんが仰るように、日本庭園にはだいたい松が使われていますよね。
そうですよね。でもそれってなぜなんでしょう。手のかからない種類だからですか?
いえいえ、松はむしろすごく手のかかる木です。3.5メートル以上になれば、職人が丸1日がかりです。
へえ! 1本手入れするのに丸1日ってことですよね。……でもそれで思い出しましたけど、「松は葉を手でむしって手入れする」なんて話を聞いたことがあります。
ああ、よくご存じで。仰るとおりです。最初にはさみで余分な枝などを落とした後、細かい部分は手で葉をむしって手入れします。
すごいなあ。皇居のまわりにたくさん松が並んでいるところがありますけど、あれもそうやってむしって手入れしているんですかね。
むしっていると思います(笑)。
へえ、すごい手間と人件費がかかるでしょうねえ。そう考えると松ってすごく贅沢な木なんですね。
そうですね。メンテナンスはかなり大変です。形が整っている松でも、1年2年放っておいたら、もう元に戻せないくらい変わってしまいます。
へえ。でもそんなに大変なのに、なぜ昔の人たちは松を植えたがったんでしょうね。やっぱりゴージャスに見えるからですか?
昔はよく「門かぶりの松」なんて言いましたね。松って針葉樹で葉がとがっているので、その下まで日を通すんです。それが子孫繁栄に見立てられて、縁起のいい木だとされたわけです。
ははぁ、自分だけじゃなく、下の植物、次の世代まで繁栄(日光)をもたらすと。
そういうことですね。それがいつの間にか、「うちの門の松はこんなに大きいぞ。すごいだろう」という話に変わってしまったような気もしますけど。
なるほど、確かに(笑)。ともあれ最近は庭に松を植える人なんていないじゃないですか。職人が1日がかりでメンテしなきゃいけない、手間もお金も大変かかる「面倒な木」だって知られてしまったんですか?(笑)
そうかもしれませんね(笑)。でも最近、赤松を植えるのが流行ってきているんですよ。幹がキレイで、松林みたいにすると絵になるということで。
へえ。赤松ってあの松茸が生えるやつですね。赤松はメンテナンスがラクなんですか?
いえ、赤松もちゃんと大変です(笑)。
そうなんですか(笑)。じゃあ、中島さんとしてはやっぱり、現代の庭に松を植えるのはオススメしませんか。
「どうしても松がいい」というお客さんもいますから、一概には言えませんけれど。ただ、そこまでのこだわりがないお客様には、松よりもアオダモなどをオススメすることが多いですね。
ああ、過去の事例でもよく使ってらっしゃいましたよね。アオダモと言えば野球のバットに使われる木として有名ですけど、なぜ庭にもオススメなんでしょう。
低い位置の枝が少なくて、門柱のそばに植えたりしても邪魔にならないんです。それに、成長速度も遅いので、取り扱いがしやすいというか。
成長が遅い方がメンテナスの回数が少なくて済むってことですよね。
ええ。木って、当たり前ですけど成長するんです。たとえば最近、シマトネリコっていう木が人気なんですけど。
シマトネリコ?
はい。常緑樹で葉っぱが細かくて、見た目がキレイな木です。でも、最初は確かにキレイなんですけど、5年も経つとすごく大きく育ってしまって、それこそ職人さんにお願いしないとどうしようもなくなります。
ははぁ。つまり、植えたときのことだけじゃなく、植えた後のことも考えないと痛い目を見るんですね。でも、そのシマトネリコが5年で手に負えなくなっちゃうことを、施主さんは知らないんですかね?
どうなんでしょう(笑)。そういった部分より、最初の金額の安さなどを優先されているのかもしれませんね。
安いけど「後で大変ですよ」とは知らされてないんでしょうね。
そうかもしれません。でも、そのぶん後で苦労されている方も多いみたいで。
大きくなりすぎて邪魔だし、メンテナンスにもお金もかかるし、となれば、引っこ抜きたくなる人もいるでしょうね(笑)。
そうなんです。でもそれで「庭なんて手間がかかるだけで必要ないもの」って思われたら、すごく悲しいんですよね。
そうですよねえ。だってそれ、木が悪いわけじゃなく、木の選び方が悪いだけですもんね。
仰るとおりです。だから、庭づくりはぜひ長い目で考えてほしいなあと思うんです。
そういう意味でも、もう少し中島さんのオススメを聞いておきたいんですけど。たとえば先ほど常緑樹という言葉が出てきましたが、落葉樹もあるじゃないですか。中島さんとしてはどちらがオススメなんですか?
メンテナンスの手間という意味では、落葉樹の方がオススメです。
えっ、そうなんですか? 葉が落ちる分、落葉樹のほうが大変な気がしますけど。
落葉樹は秋にいっぺんに落ちるんです。だから掃除もある意味1回でいい。一方の常緑樹は、3月から7月くらいにかけて、少しずつちょっとずつ落ちるので……
ああ、なるほど。それだけ頻繁に落ち葉掃除をしなきゃいけないと。でも、そこまで考えて木を植える方ってどれくらいるんでしょうね。
私たちもできるだけ、そういう部分をお客様にお伝えするようにしています。長く愛される庭づくりをしていきたいですから。
そうですよね。庭って作って終わりじゃない。むしろそこから物語ができていくものですもんね。
対談している二人
中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役
高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。