第96回 屋上に庭をつくるという選択

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第96回 屋上に庭をつくるという選択

安田

ルーフガーデンって最近よく耳にしますけど、実際にどうやって木を植えているのか、あまりイメージが湧かないんですよね。そもそも屋上に庭なんて作れるのかと(笑)。


中島

笑。ルーフガーデンをつくる上で一番大切なのは、まず「重量」なんです。屋上は構造的にあまり重いものを乗せられないケースが多いので、設計の初期段階から意識しておく必要があります。

安田

確かに。普通の庭のように土をたっぷり入れて、石を組んで、というのは現実的じゃないですもんね。でもせっかくスペースがあるなら、季節を感じられる木があったり、一年を通して緑を眺められる空間にしたいなぁ。


中島

そうなんですよ。そこで活躍するのが、土を使わずに植物を育てられる「薄いマット」で。例えばボスケさんという会社が出している10センチほどの厚さの緑化マットは、軽量なのに植物の根がしっかり張れる設計になっています。

安田

へ〜、たった10センチのマットで木が育つものなんですね。その薄さで、大きな木まで対応できるものなんですか?


中島

実際に見たものだと、3.5メートルから4メートルくらいの樹木がそのマットで植えられていました。屋上には理想的なサイズ感ですよね。

安田

へぇ、すごい。ベランダに木を植えるって、もっと重労働だと思ってました。


中島

そうですよね。私自身、最初は風で飛ばされるんじゃないかって心配していたんです。でもサイドを結束バンドで固定しておくと、時間が経つと木の根同士が絡み合って、鋸で切らないと動かせないくらい強くなります。

安田

ほう、そんなにがっちり固定されるものなんですね。ある意味、自然の力を利用して構造を安定させていると。


中島

そうですそうです。根が伸びることでマット全体が一体化して、結果とても安定するんです。

安田

ルーフガーデンをやるならこのマットは欠かせませんね。他にもよく使う資材や道具ってあるんですか?


中島

多いのは水回りの設備ですね。バーベキューや屋外ダイニングとして使いたいという場合に、蛇口や排水の仕組みを備えることが多いです。

安田

確かに、屋上でご飯食べたりお茶したりって、憧れますもんね。ちなみに皆さん家を建てる時点から、そういう設計で考えてるんですか?


中島

いや、それが実は逆なんですよ。「広めのベランダを作ったけど、使い道がなくて…」というご相談の方が多いです。最初は庭にまったく興味がなかったけど、私がご提案したりする中で「ベランダにも緑があるといいね」となるパターンですね。

安田

なるほどなるほど。最初は「庭なんていらない」って言ってた方が、最終的にはルーフガーデンを導入しちゃうと。


中島

そういうケース、結構ありますよ。緑がある暮らしって、実際に体験してみると良さがじわじわ伝わってくるので。

安田

わかります。ちなみに2階とか3階に植栽を置くとなると、運ぶのも大変じゃないですか? クレーンとかも必要ですよね。

中島

場所によりますが、2メートルくらいの木であれば人の手で運べます。家の中の階段を使って持ち上げることもありますし、クレーンを使うのは広い屋上などの場合ですね。

安田

そうなんですね。それなら想像よりずっと身近に感じます。設計次第で、意外と無理なく実現できそうです。


中島

都内や神奈川であれば、我々の方で通いで対応できますし、最近は問い合わせも増えていますよ。

安田

木を植えるってことは、当然花も植えることになりますよね? そうなってくると、植木鉢の代わりに「庭を置く」っていう感覚ですね。

中島

まさにそういうイメージです。シートを敷いて、少し砂利を入れておけば雑草も生えにくくなりますし、緑化マットに芝生を植えることもできます。

安田

芝生まで植えられるんですか! 手入れがすごく大変そうですけど…

中島

確かに普通の芝は大変ですが、最近は管理が楽な種類もありますし、ピートモスという軽量の土壌を使えば、水やりの頻度も抑えられます。

安田

ああ、ピートモスってよく聞きますね。軽いけど栄養もある土ですよね。

中島

そうです。それをマットの上に撒くだけで大丈夫です。しかも水はけの設計がされていて、雨水はベランダの排水口へ自然と流れていく。

安田

なるほどなるほど。乾燥しすぎる心配もありそうですが、そこはどうされてるんですか?

中島

自動散水機を導入するケースが多いです。夏と冬で水の量をタイマーで調整すれば、草木が枯れる心配もありません。1年で1.5倍くらいに育つものもあるので、その分剪定やメンテナンスが必要になりますが。

安田

なるほど。やはりある程度の手入れは必要ということですね。ちなみにお値段ってどのくらいかかるんですか?

中島

緑化マットは1ユニットで3万〜5万円程度ですね。規模にもよりますが、全体では数十万から200万円あれば十分です。

安田

それだけで、あの雰囲気が作れるなら、むしろコスパがいいかもしれないですね。都市部では特にニーズがありそうです。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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