第8回 もうお金に対する欲求はなくなった

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第8回 もうお金に対する欲求はなくなった

安田

今回は、経営者たるもの頭の痛い部分である「社員の給与」について。端的に聞きますが、西崎さんは「社員の給与は高い方がいい」という考え方ですか?


西崎

それはもう、高い方がいいと思います。ただ、それが実現できているかと言われたらまだまだで。平均年収500万ちょっとなので、大手や成長企業とぶつかると給与で負けることがあります。

安田

そうなんですか?


西崎

ええ。一般的な中小企業とだったら充分戦える水準だとは思いますけど、大手と比べたら全然だなって感じです。

安田

まぁ大手は規模の強みがありますから。全国で大量に物を売る力があるので、仮に社員の能力が同じでもレバレッジが効く。だから高い給与も払えるわけで。


西崎

そうですね。

安田

私もワイキューブ時代にね、古巣であるリクルートの年収を越えたいと思ったんです。それで社員の給与をガンガン上げた。結果はご存知の通り失敗だったわけですが、それもあって「社員の給与を上げ続けるって果たして可能なんだろうか」と思うわけですよ。


西崎

確かに、社員が上げる成果が変わらないのに給与を上げ続けていたら、どこかの時点で破綻してしまう。そういう意味では、むしろ生産性が上がる仕組みを先に作る必要があるんだろうなと。

安田

ああ、なるほど。利益が上がった分を給与に還元すると。


西崎

ええ。「利益を残すにはとにかく経費を抑えることだ」と言う経営者も多いですが、そういう考え方だと社員の給与は上がっていかない。

安田

つまり重要なのは、人件費を抑えることで利益を増やすんじゃなく、どうすれば給与を上げられるくらい利益が出せるか、という視点だと。確かに「いかに給与を上げないか」を頑張ってる社長なんて、社員もやる気が出ないですよね(笑)。


西崎

そうなんですよ(笑)。でも実際、社員にとって給与って本当に大事じゃないですか。僕はよくビジョンとか夢とかって話をしますけど、それだけじゃ人は絶対ついてこない。

安田

同感です。同感なんですけど、会社の利益って、売上から経費を引いたものなのは間違いないわけで。つまり人件費を含めたコストが増えれば増えるほど、利益は減っていく。このバランスは難しいですよね。


西崎

それは間違いないですよね。利益が上がる仕組みを先に作るって言っても、簡単なことじゃない。社員だって、「利益が上がったら君の給与も上がるんだよ」と言われても、なかなかピンと来ない部分もあるでしょうし。

安田

「社長一人だけ明らかに生活レベルが上」みたいな会社、たくさんありますもんね(笑)。西崎さんの周りにもそういう社長いらっしゃると思うんですが、どう思われますか?


西崎

う~ん、でも、昔は僕もそんな感じだったかもしれない(笑)。お金に対する欲求はすごくあったので。でも、2000万以上稼げるようになると、それ以上物欲は上がらなかったですね。

安田

そうですか? 2000万円じゃ月にはいけませんよ? 自家用ジェットも買えないし(笑)。


西崎

笑。でも実際、欲しいなと思うものはある程度買えますし、「お金が足りないから諦めよう」ということもほとんどない。そうなると、結局のところ残るのは「仕事をもっと面白くしたい」という欲求なんですよね。

安田

なるほどなぁ。「それ本心で言ってますか?」とはちょっと思いますけど(笑)。


西崎

いやいや本心ですよ(笑)。もちろん会社の成長と合わせて給与は僕も社員も上げていきますけど、特に個人だとそんなに使いどころがないっていう感じです。

安田

そうなんですね。疑ってすみません(笑)。


西崎

いえいえ。それに僕は、創業期から一緒にやってきてくれている人たちに報いたい気持ちが強いんです。たとえばウチは弟が取締役になってくれているんですが、年収の高い会社を辞めて来てもらったんですね。

安田

ほう、つまりトゥモローゲートに入ることで給与が下がってしまったと。どれくらい下がったんですか?


西崎

外資系のコンサルからだったんで、3分の1以下だったと思います。他の役員連中も同じようなもので、みんな収入をゴッソリ減らしてまでウチに入ってくれたんです。

安田

ははぁ、なるほど。そうまでして入ってくれたんだから、しっかり稼がせてあげないといけないと。


西崎

苦しい時に一緒に頑張ってくれた人たちですから。そういうこともあって、周りの人たちの収入をもっと上げていって喜んでくれるのは嬉しいですね。

安田

なるほどね。それはそれでやりがいがありそうです。


西崎

そうなんですよ!そのためにも今の事業の生産性を上げたり、新規事業を創ったりとやることは山積みです(笑)。

安田

笑。まあ収入を上げるのもね、役員くらいならなんとかなるんですよ。でもそれを社員全員と考え始めると、なかなか大変ですよ~(笑)。体験者は語る、というやつですけど。


西崎

説得力があります(笑)。とはいえ、やっぱり僕は「まず利益を上げて、それを分配する」というスタンスではあるので、利益がない中で全員の給与をガンガン上げていくことはないですね。

安田

なるほど。でもその理屈で言えば、「利益が下がった時は給与も下げる」ってことになりませんか。


西崎

あ、それはもう最初から言っています。「下がった時は下げるからね」と。幸いにして今のところ増収を続けているので、下げたことはありませんけど。

安田

それは何よりですが、下げたら一気に人材抜けますよ~。


西崎

そうですよね……そこはまだ体験したことのないゾーンで。

安田

役員とかの層は大丈夫だと思うんです。西崎さんとの距離がある程度近い人はね。でも組織が100200人になってきたら、全員とその距離で付き合うわけにはいかなくなりますよ。


西崎

ええ、それはその通りだと思っています。

安田

それに、トゥモローゲートさんの場合、社員さんたちもSNSをかなり活用されていますよね。「給料倍出すからウチに来ないか」というヘッドハンティングも行われるかもしれない。そうなったときに、「上げた成果に応じて払います」という、ある意味後出しのスタンスが通用するのかな、と。


西崎

仰っている意味はすごくわかります。つまり、先物買いのような形で社員が引き抜かれてしまう可能性もあるよ、と。

安田

そうそう。それを理解していても、ポリシーは変えないんですか?


西崎

そうですね(笑)。だからこそ、経営者としてしっかり利益を出していくという点と、給与以外でもこの会社にいる理由がある組織づくりをするという二軸が必要なのかなと。

安田

なるほど。ちなみにちょっと別角度の質問なんですけど、仮に利益がアップしたとして、それは誰の功績なのか、という問題がありますよね。


西崎

ああ、はい。確かに。

安田

例えば西崎さんが仰るように、「利益があがる仕組み」が作れたとしましょう。それで実際、利益がアップしたと。それって社員というより、仕組みを作った人の功績だと捉えることも可能だと思うんですよ。


西崎

そうですね。

安田

つまり利益アップさせたのは仕組みを作った西崎さんや役員であると。そういう状況でも、社員の給与を増やそうと思いますか?


西崎

思います。その点については、「会社としての水準を上げていく」という見方をしてますね。私たち自身、現状の「人に依存しまくったビジネスモデル」から、「人に依存しないで収益を出せるビジネスモデル」に変えていこうと思っているので。

安田

なるほど。わかりました。さすがにそこのポリシーはすごく強いですね。


西崎

ありがとうございます。会社としてしっかり利益を出せるように頑張っていきます。


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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