第192回 自分の商売を信じる強さ

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、私の友人が飲食店を開業するとの事で、プレオープンに行ってきました。
そこでオーナーである友人から商品に対する思いや、そのお店ならではのこだわりポイントを聞かせてもらい、その一貫性ある内容を聞きながら改めて思ったのです。

「自分の売りたい商品を信じる強さこそが、上手くいく要因なのだろうな」と。


商売を始めようと考えた時、多くの人は売りたい商品を明確に持っていると思います。
今回のオーナーも自分のお店をどんな顧客に、どんな状況で使ってほしいのかが明確に決まっており、その思いをお店にいる間に強く感じることができました。

「売りたい商品が明確になっていること」

これは一見、当たり前のようでもあります。
でも私自身の開業当時を振り返ってみると、開業前は売りたい商品が明確だったにもかかわらず、気がつけば他の飲食店に勝とうとするあまり自ら価格勝負を仕掛けてしまい、本来自分が売りたかった商品を忘れてしまっていました。

そして、街で見かける低価格を売りにしたお店のほとんども、実は私と同様に当初は低価格で売るつもりなんてなかったのではないかと思うのです。

つまり、低価格に走ってしまうお店というのは、「本来自分が売りたかった商品の価値」よりも、「低価格という価値」を信じてしまったのであり、自分の商品を信じ抜くことができなかったお店と言えるのではないか、ということ。

偶然ではありますが、私のお店は価格競争の限界から値上げをした結果、それまでお店を使ってくれていた顧客の多くを失うという現実を目の当たりにし、その現実から本来自分が顧客に提供したい商品は何だったのかを見直すきっかけを得ることができたおかげで、現在まで商売を続けてくることができました。

これは言ってみれば、元々自分がお客さんに売りたかった商品に戻っただけであり、決して新しい何かを作り出した訳ではありません。

そう考えてみると、商売というのはやりたい事をやった結果、上手くいかなくなる場合よりも、本来やりたかった事の途中で他店の影響を受けてブレてしまった結果、上手くいかなくなる場合の方が多いのではないかと思えるのです。

情報の入手が容易になった分、私たちはつい自分のお店の外側に商売の答えを探しに行ってしまいがちですが、そうではなく、本来自分がお客さんに提供したい商品とは何だったのかを今一度見つめ直し、ブレることなくその商品価値を高めることに力を注ぐことこそが、強い商売に近づくために欠かせない姿勢なのだろうと、今回のオーナーのお店を訪れて再認識させられた気がするのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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