この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
未払い養育費の「回収ビジネス」ってのがあるらしいんですけど。聞いたことあります?
ないですね。
弁護士さんがやってるんでしょうね。
いや、今調べたらIT会社みたいです。
へえ。IT会社ですか。未払い養育費って問題になってるんですか?
払わない人が多いですから。
久野さんもよく相談を受ける?
相談ではないんですけど、クライアントの社員さんにシングルマザーの人が一定数いまして。よく聞きますね。
ふつうは弁護士さんに相談しますよね。
そうですね。
払ってない場合は過去にさかのぼって請求できるんですか。
もちろん請求できます。
時効はない?
時効に関しては民法が適用されます。ただ普通は時効にならないように請求してきます。
給料の差し押さえとかもできるんですよね。
できます。
なぜやらないんですか?世のお母さんたちは。「養育費もらえなくて困ってる」って話をよく聞くんですけど。
追い込んだら、さらにお金が出てこなくなるから。
さらに出てこない?
払わないほうが悪いんですけど、追い込むと居直ってしまうんですよ。結果としてさらに回収しにくくなる。
払ってないくせに居直るとは。もっと追い込んでやればいいんです。
そこまではやらない人が多いです。諦めてるっていうか。
もしかして、取り立てできることを知らないとか。
たぶん、もう関わりたくないんでしょうね。
なるほど。お金より「関わりたくない気持ち」の方が勝ると。
そうじゃないですか。
弁護士さんとしても、積極的にやるほどおいしい仕事じゃない?
でしょうね。大きなビジネスにはなりえないです。
じゃあ、IT会社だからできるってことですか。
システムを使って生産性を高くする方法を考えたんでしょう。
弁護士と組んでやるんでしょうか?
もちろん法的な後ろ盾はあるでしょうね。
どういう仕組みだと思います?
たとえば自動で引き落としをかける仕組みとか。
給料を差し押さえる「ボタン」をポンっと押すだけみたいな。
そこまで出来るかどうかは分かりませんが(笑)
ちなみに稼いでない人の場合どうするんですか。差し押さえようにも給料も財産もないっていう。
何ともならないでしょうね。
闇金だったら親や兄弟のところまで取り立てに来ますけど。
それは無理です。
じゃあ、泣き寝入りですか。
じつは今、そういう問題を会社がサポートする方向なんですよ。
会社がサポート?
従業員が健やかに働ける仕組みをつくるために。借金問題とかも福利厚生の一環として会社がサポートする。
へえ。人材不足ですもんね。
はい。親の相続の話とかDVとか。会社で契約してる弁護士さんに相談できる。
優秀なシングルマザーさんの採用には効果ありそうですね。会社の弁護士が「養育費を取り立てますよ」みたいな制度。
そういうのは実際多いんですよ。福利厚生がどんどん充実してるので。
へー!
社員のモチベーションアップと採用力アップの施策ですね。
養育費の未払いって実際どれぐらいあるんでしょうね。
3500億円と言われてます。
そんなに!それはもっと取り立てないと。
給与の差し押さえをするには、勤務先を突き止めないといけないらしくて。
じゃあ勤務先が分からないから、差し押さえられない?
あとは預金口座ですね。
なるほど。結構大変ですね。
はい。養育費を払わない人って、銀行口座も変えてるケースが多いので。
払わないつもりだったら口座は教えないですよ。
はい。結婚してた時の口座は使わないようにして、ネット銀行に変えたり。
弁護士さんに頼んだら口座は調べてくれるんですか。
手続きはやってくれますけど結構大変です。片っ端から書類を送るんですけど、さすがに全銀行、全支店に送るのは厳しい。
じゃあ今回のシステムはそれを突き止めてくれる?
何かしらの方法でそれを調べて特定していくんでしょうね。
なるほど。それをITで解決しようってことですね。今後はそういう「取り立てビジネス」みたいなのが増えそうですね。
未払い残業の取り立ては間違いなく増えます。給料は上がらないし、もらえるものはちゃんともらおうっていう。
そこにテクノロジーが加わってくると。
法律とITのサービスって、すごく親和性が高いんですよ。
そうなんですか。
はい。これまで身近じゃなかった司法のサービスがITによって一気に身近になる。
訴訟がどんどん増えそうですね。
間違いなく増えます。「これは自分の権利なんだ」って気づく人が増えていくので。
養育費だけでも3500億円あるわけでしょ?
はい。
そこに未払い残業が加わるとすごいマーケットになりますね。
そっちの方がはるかに大きいです。雇用にまつわる訴訟は今後すごいことになります。
やっぱり早いとこ雇用をやめた方がいいんじゃないですか(笑)
冗談じゃなく本当にそうです。弁護士さん自身が「雇わない経営」の研究をし始めてますよ。
雇用に覚悟が必要な時代ですね。
覚悟がなきゃ絶対に雇用しちゃいけないです。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。