第60回「ITが変える回収ビジネス」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第60回「ITが変える回収ビジネス」

安田

未払い養育費の「回収ビジネス」ってのがあるらしいんですけど。聞いたことあります?

久野

ないですね。

安田

弁護士さんがやってるんでしょうね。

久野

いや、今調べたらIT会社みたいです。

安田

へえ。IT会社ですか。未払い養育費って問題になってるんですか?

久野

払わない人が多いですから。

安田

久野さんもよく相談を受ける?

久野

相談ではないんですけど、クライアントの社員さんにシングルマザーの人が一定数いまして。よく聞きますね。

安田

ふつうは弁護士さんに相談しますよね。

久野

そうですね。

安田

払ってない場合は過去にさかのぼって請求できるんですか。

久野

もちろん請求できます。

安田

時効はない?

久野

時効に関しては民法が適用されます。ただ普通は時効にならないように請求してきます。

安田

給料の差し押さえとかもできるんですよね。

久野

できます。

安田

なぜやらないんですか?世のお母さんたちは。「養育費もらえなくて困ってる」って話をよく聞くんですけど。

久野

追い込んだら、さらにお金が出てこなくなるから。

安田

さらに出てこない?

久野

払わないほうが悪いんですけど、追い込むと居直ってしまうんですよ。結果としてさらに回収しにくくなる。

安田

払ってないくせに居直るとは。もっと追い込んでやればいいんです。

久野

そこまではやらない人が多いです。諦めてるっていうか。

安田

もしかして、取り立てできることを知らないとか。

久野

たぶん、もう関わりたくないんでしょうね。

安田

なるほど。お金より「関わりたくない気持ち」の方が勝ると。

久野

そうじゃないですか。

安田

弁護士さんとしても、積極的にやるほどおいしい仕事じゃない?

久野

でしょうね。大きなビジネスにはなりえないです。

安田

じゃあ、IT会社だからできるってことですか。

久野

システムを使って生産性を高くする方法を考えたんでしょう。

安田

弁護士と組んでやるんでしょうか?

久野

もちろん法的な後ろ盾はあるでしょうね。

安田

どういう仕組みだと思います?

久野

たとえば自動で引き落としをかける仕組みとか。

安田

給料を差し押さえる「ボタン」をポンっと押すだけみたいな。

久野

そこまで出来るかどうかは分かりませんが(笑)

安田

ちなみに稼いでない人の場合どうするんですか。差し押さえようにも給料も財産もないっていう。

久野

何ともならないでしょうね。

安田

闇金だったら親や兄弟のところまで取り立てに来ますけど。

久野

それは無理です。

安田

じゃあ、泣き寝入りですか。

久野

じつは今、そういう問題を会社がサポートする方向なんですよ。

安田

会社がサポート?

久野

従業員が健やかに働ける仕組みをつくるために。借金問題とかも福利厚生の一環として会社がサポートする。

安田

へえ。人材不足ですもんね。

久野

はい。親の相続の話とかDVとか。会社で契約してる弁護士さんに相談できる。

安田

優秀なシングルマザーさんの採用には効果ありそうですね。会社の弁護士が「養育費を取り立てますよ」みたいな制度。

久野

そういうのは実際多いんですよ。福利厚生がどんどん充実してるので。

安田

へー!

久野

社員のモチベーションアップと採用力アップの施策ですね。

安田

養育費の未払いって実際どれぐらいあるんでしょうね。

久野

3500億円と言われてます。

安田

そんなに!それはもっと取り立てないと。

久野

給与の差し押さえをするには、勤務先を突き止めないといけないらしくて。

安田

じゃあ勤務先が分からないから、差し押さえられない?

久野

あとは預金口座ですね。

安田

なるほど。結構大変ですね。

久野

はい。養育費を払わない人って、銀行口座も変えてるケースが多いので。

安田

払わないつもりだったら口座は教えないですよ。

久野

はい。結婚してた時の口座は使わないようにして、ネット銀行に変えたり。

安田

弁護士さんに頼んだら口座は調べてくれるんですか。

久野

手続きはやってくれますけど結構大変です。片っ端から書類を送るんですけど、さすがに全銀行、全支店に送るのは厳しい。

安田

じゃあ今回のシステムはそれを突き止めてくれる?

久野

何かしらの方法でそれを調べて特定していくんでしょうね。

安田

なるほど。それをITで解決しようってことですね。今後はそういう「取り立てビジネス」みたいなのが増えそうですね。

久野

未払い残業の取り立ては間違いなく増えます。給料は上がらないし、もらえるものはちゃんともらおうっていう。

安田

そこにテクノロジーが加わってくると。

久野

法律とITのサービスって、すごく親和性が高いんですよ。

安田

そうなんですか。

久野

はい。これまで身近じゃなかった司法のサービスがITによって一気に身近になる。

安田

訴訟がどんどん増えそうですね。

久野

間違いなく増えます。「これは自分の権利なんだ」って気づく人が増えていくので。

安田

養育費だけでも3500億円あるわけでしょ?

久野

はい。

安田

そこに未払い残業が加わるとすごいマーケットになりますね。

久野

そっちの方がはるかに大きいです。雇用にまつわる訴訟は今後すごいことになります。

安田

やっぱり早いとこ雇用をやめた方がいいんじゃないですか(笑)

久野

冗談じゃなく本当にそうです。弁護士さん自身が「雇わない経営」の研究をし始めてますよ。

安田

雇用に覚悟が必要な時代ですね。

久野

覚悟がなきゃ絶対に雇用しちゃいけないです。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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