第71回「コロナから見える未来」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第71回「コロナから見える未来


安田

コロナ助成金の現場状況を聞きたいんですけど。

久野

社労士事務所はもう大変なことになってまして。要項がすぐ変わるんですよ、4回、5回と。

安田

申請方法が変わるってことですか。

久野

はい。ただでさえ分かりづらい助成金なので、事務所の電話が鳴りやまない。

安田

大変ですね。

久野

労働局への電話がつながらないので。ガンガン電話かかってきます。

安田

そんなに煩雑な手続きなんですか?

久野

手続き自体はかなりシンプルになってきました。

安田

じゃあ審査が厳しい?

久野

いえ。雇用関係の助成金って要件さえ通れば出るんですよ。ただ、要項の意味が分からないとか。

安田

小さい会社が「自分で申請するのは無理だ」って言われてますよね。

久野

資料を読み込まないといけないので。聞いたことない言葉もいっぱいあるし。普段からちゃんとやってない会社は厳しい。

安田

プロの社労士さんなら楽勝だと。

久野

いや、そうでもないです。なきゃいけないものがなかったりするので。後からつくれないものが結構あるんです。

安田

たとえばどんなものですか?

久野

労働契約書とか。

安田

労働契約書がないってことですか?

久野

はい。タイムカードもなかったりすると、結構致命的ですね。

安田

顧問先にもそういう会社があると。

久野

ウチのお客さんは大丈夫です。

安田

じゃあ、顧問先じゃない人からの依頼が増えてるってことですか。

久野

はい。すごい数の電話かかってきます。労働局に繋がらないから。

安田

それでパニックになってると。

久野

はい。顧問先も一時は大変でしたけど、もう収まりました。

安田

顧問先の手続きはもう終わったってことですか。

久野

いえ、これからです。ただスケジュールが共有できているので。

安田

スケジュール?

久野

「急がないと助成金がもらえなくなる」と皆さん思ってる。でも今回の助成金は後から遡って請求できる。

安田

なるほど。ちなみにどんな電話がかかってくるんですか?

久野

知らない会社の従業員から「うちの社長の対応がまずい」「これでいいのか」って。あとフリーランスの方も結構電話してきます。

安田

なぜ知らない社員が久野さんの事務所にかけてくるんですか。

久野

新聞やネットニュースに「まず社労士に相談しろ」と書いてあるから。

安田

とりあえず「社労士に聞いとけ」と。

久野

そうですね。検索すると出てきちゃうので。

安田

噂によると助成金申請って、社労士さんも連帯責任を問われるそうですね。

久野

連帯保証欄みたいのがあって、そこに署名させられる。だから変な申請をすると一発で会社がぶっ飛びます。

安田

じゃあ顧問先以外は怖くて受けられないですね。

久野

ちゃんとした会社じゃないと受けられないです。

安田

顧問先以外は断ってるんですか。

久野

基本的にはそうですね。

安田

その場で「顧問契約したい」って言われませんか。

久野

言われますけど。会社の内容を見せていただいてから判断してます。

安田

「申請だけやってくれ」みたいな仕事は、怖くて受けられないってことですね。

久野

そうです。

安田

スムーズにいけば何カ月ぐらいで出るんですか?助成金って。

久野

ちゃんと必要な資料が集まれば申請自体は1週間もかからない。

安田

申請してから何カ月もかかるんでしょ?

久野

通常は2~3カ月かかるんですけど、今回は「1カ月以内に出します」と政府が言ってます。

安田

じっさい出てる会社はまだ少ないって話です。

久野

3月頃は数件でしたけど5月は38,000件で、どんどん増えていってます。

安田

スピードアップしてると。

久野

でないと、どんどん解雇する会社が増えるので。

安田

本当に1カ月で出るんですか?

久野

たぶん30万〜40万件の申請があると思うので、普通に考えたらどこかで止まります。労働局もリソースが限られてるので。

安田

ですよね。

久野

やっぱり2~3カ月、へたすると4〜5カ月後にしかお金が入ってこなくなると考えざるを得ない。

安田

それでは間に合わない企業がたくさん出てきそう。

久野

これはいい話じゃないんですけど、失業手当の拡充みたいのがあるんですよ。

安田

失業手当の拡充?

久野

じっさい東日本大震災のときにあったんですけど。会社を辞めた時に失業手当を早く受け取れるようにする。

安田

なるほど。お金さえ入るならそっちの方がいいと。

久野

ただコロナで次の就職が見えづらいから。社員の希望はステイホームです。

安田

ステイホーム?

久野

会社を休みにして、給料はちゃんと払ってくれと。

安田

それでは会社がもたないでしょう。

久野

はい。厳しいですね。

安田

顧問先でも解雇を検討する会社って出てきてますか?

久野

うちのお客さんはわりと資金力があるので。ただ3カ月とか続くとちょっときついですね。

安田

3カ月は厳しいですね。さすがに。

久野

はい。3カ月続いたら「ちょっと相談もするかも」という予告はもらってます。

安田

普通の中小企業は3カ月ももたないと思いますよ。

久野

もたないですよね。飲食なんかはもう限界にきてる。7月8月は製造業も相当きついことになってるでしょう。

安田

「3割ぐらいつぶれるんじゃないか」って気がします。

久野

本当にそんな感じですよね。

安田

つぶれないために何かアドバイスはありますか?

久野

乗り越えることを目標にしないほうがいいと思います。

安田

何を目標にすればいいんですか。

久野

もう前と同じ状況には戻らない。そう考えて経営したほうがいい。

安田

耐えてるだけじゃダメってことですね。

久野

はい。耐えると同時に新しいことを始める。厳しいですけどそれしかないと思う。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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