西武ホールディングスが給付金の不正受給をしたそうで。
そうみたいですね。
これって「平均月給の何割」みたいな計算でしたっけ?休ませた場合は。
前年の労働保険料から直近の労働保険料までを計算して、会社の数字を決めます。
難しそうですね。
ちょっと複雑なんです。普通の人が読んだら絶対分からないと思う。何が論点かっていうと「従業員に100%補償したら、補償も会社が算定した額の100%」なんですね。
従業員の給料は100%払うってことですか?
100%払う。そしたら「その100%を会社に戻してあげるよ」という制度。
国が肩代わりするから「100%払ってあげなさい」ってことですよね。
ほぼその解釈でいいと思います。
だけど西武ホールディングスさんは、社員に払わず自分たちの利益にしてたと。
そこは若干違いまして。基本的に社員には「平均賃金と基本給のどっちか高い方」を払うわけです。
確かタクシー会社ですよね。問題になっていたのは。
はい。雇用調整助成金の書類は「支払った金額」に応じて数字を書かなくちゃいけないんです。
そりゃそうでしょうね。
たとえば60と書かなきゃいけないところを100って書くと、国から満額お金をもらえる。
それはやってもいいことなんですか?
いえ、絶対にやっちゃいけないところです。
そりゃそうですよね。
はい。そこに100って書いてしまった。
つまり社員には100払ってなかったけど、払っている風に書いちゃったと。
そうです。
別に払わなくてもいいんでしょ?100は。
払わなくてもいいです。ただ100払わないんだったら、払った割合を書かなきゃいけない。社員に払ったのが60なら60って書かなきゃいけない。
その場合は国から60しか出ないんですか。
そうです。国から60しか出ない。
それが普通ですよ。儲けてどうするんだって。
だけど西武さんは社員に60しか払ってないのに、100と書いちゃった。
その差額を「利益計上してた」って書いてましたけど。
はい。
わけがわからないんですけど。そんなことしたら絶対にバレますよね。堂々と利益計上するってどういうことですか。
助成金自体はもう隠しようがないと思うんです。法人の口座に直で入ってきますので。
だったらもっと早く指摘すればいいのに。
労働局もちょっとチェックが甘いと思う。
つまり企業側に悪意はなかったと。
おそらく入ってきた金額を普通に利益計上しただけ。で結果として新聞報道されて問題になった。
西武さんとしたら自分の腹が痛むわけじゃないですよね。全額払ったとしても。
はい。
なぜ全額払わなかったんでしょう。社員のモチベーションも上がると思うんですけど。
本来は社員に100払って、国から100補填してもらうのがベストですよね。
そうですよ。なぜ払わなかったのか。
おそらく基本給が、毎月支払われている金額よりもだいぶ少ないんですよ。
それは歩合制だから?
タクシー会社は歩合が多いんです。毎月40万払われてるけど基本給は20万とか。で20万円払ったので基本給の100%だから100って書いちゃった。
だけど受給してたのは基本給の100%じゃなく、支払い額の100%だったと。
算出額の100%をもらえる制度なので。
ややこしい。
非常に複雑なんですけど。まず会社としての金額を決めるんですね。過去の実績から。
その実績に満たない社員もいるわけですよね?
いるでしょうね。
すると会社に差額が残っちゃいますよね。
残っちゃうんです。
残ってしまうのは違法じゃないんですか?
残ってしまうのは違法じゃない。
そういう場合はどうしたらいいんですか。返さないといけない?
いや。制度上、返すのは不可能だと思います。
じゃあ利益になるじゃないですか。
そうです。ただ今回のケースでいくと差額が大きすぎる。
大きすぎたら駄目なんですか?
これが難しいところなんですよ。たとえば支給額の中には通勤手当とかも入ってたりしますよね。
はい。
23万払ってる中にたとえば1万の通勤手当が入ってる。会社に来てないわけですから交通費を支給する必要はない。
そりゃそうですね。
こういう場合はいいんですよ。22万円の支給で。基本給は全額払ってますから100%って書いてもいい。
差額が出てもいいと。
ちょっと差額が出るのはいい。だけど西武さんの場合は恐らく、歩合給の割合がすごい高いんですよ。だから基本給との差額がめちゃくちゃ大きい。
つまり、国には平均支給額で助成金を請求したけど、支払ったのは基本給の部分だけだったと。
そういうことですね。
その差額をだまし取ったということですか。それとも差額が出るのは仕方がないことなんですか。
差額が出るのは不自然なことではないんです。ただ書類の書き方に、もしかして意図があるとすると、今回まずかったんじゃないかなっていう事案です。
わざとやってたかもしれないと。
わざとやってたらすごい不正なんですけど。普通は労働局に確認しつつ「これでいいですか」って確認しながら進めてるので。
プロから見たらどっちなんですか?意図的にやったのか。それともうっかりやっちゃったのか。
普通に考えたら、このクラスの会社はやらないと思います。だって、すぐに分かりますもん。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。