雇わない経営の相談が増えてきました。
はい。私もすごく増えてます。
多いのは「雇わない決意はしたけど、今いる社員はどうしたらいいんだ」っていう悩み。
そこですよね。
久野さんはどういう提案をしてるんですか。
私は一国二制度的なものをやった方がいいと思ってます。
正社員と業務委託の二制度ってことですね。
そう。それを社員に選んでもらう。
選んでもらうという部分がポイントですか。
間違い無いです。説得するのは絶対にやめた方がいい。
こちらから頼んで「雇用形態を変えてもらう」というのは難しいですよね。
雇用を求めてる人に「業務委託になりませんか」って説得するのは無理。
実感がこもってますね。
はい(笑)この1年間でいろいろ失敗して学びました。
社員だったらこう、業務委託だったらこう、っていう選択肢を示すしかないと。
あくまで選ぶのは社員ですから。
早期退職でも、どんなに説得しても、辞めてほしい人が辞めなかったりしますよね。
魅力ある世界をつくるしかないですよ。
業務委託になったら「こんなに魅力的だよ」っていう。
そう。それを先につくって、結果的に移動したい人が増えていく。それが正しい順番ですね。
業務委託で有名なタニタさんも希望者を募るそうです。
それしかないと思います。
「正社員でやっていく道もあるけど、業務委託でやっていく道もあるよ」と。
はい。
業務委託になると「時間の縛り」がなくなるのは魅力的ですよね。
はい。だけどそれだけじゃ足りないです。
時間的に自由になると同時に「稼げる」ってことも大事。
そこが重要です。
同じ労働時間で社員の1.5倍稼げるとか。もしくは同じ稼ぎだったら、働いてる時間が半分になるとか。
やっぱりコスパが重要ですよ。時間とお金のバランス。
それを実現しないと業務委託は増えないでしょうね。
私は社労士だから分かるんですけど。日本の雇用の手厚さって半端ないんですよ。同じような条件だったら、雇用でちょこっと副業した方がぜんぜんいい。
雇用システムが日本の発展を支えてきたのは事実です。だけどここに来てそれがマイナス要因にもなってます。
はい。安定志向が強くなりすぎました。
「自立して頑張ろう」って人を、もっと増やさないといけない。
これまでみたいに給料を増やし続けるのはもう無理なので。
会社にもそんな余裕はないですよ。
ないですね。
なぜこんなに余裕がなくなっちゃったんですか。
やっぱり労働法の問題は大きいです。
赤字の人でも解雇できないし。給料を払いながら育てないといけないし。
できない社員にも仕事を与えないといけないシステムだから。
良く言えば「みんなで支え合う」システムですよね。アメリカみたいな自立型とは違って。
はい。だけど「みんなで支える型」は給料を下げざるを得ない。
みんなでマイナスを分担するわけですからね。
そうなります。
育った人が辞めてしまうとか。すごいマイナスですもんね。
たとえばフリーの美容師さんも、最初は雇用されて修行を積んでるわけです。育った頃に独立されると全く儲からない。
育成費用が全部赤字になっちゃう。それを残った人たちで分担するしかない。
そういう美容室のことを、皮肉も込めて「教育型美容室」と呼ぶらしくて。
要は儲からない美容室ってことですか。
育成型の美容室は給与をめちゃくちゃ安くしないと成り立たない。
で、待遇が悪いから辞めてしまう。その繰り返しですね。
育成型でいくのであれば安くするしかない。高く払うなら全員を業務委託の面貸しにするしかない。
今から会社をつくるなら「雇わない経営」でいいと思うんですけど。すでに雇ってる場合は難しいです。
日本の法律では無理に移行できないので。さっきも言いましたけど、一国二制度にして社員に選んでもらうしかない。
どっちを選びますかね?
やってみないと分からないですけど。100:0にはならないと思います。
「面貸し的に働いてる人」と「社員として働いてる人」が混在する組織になると。
そうなります。
その割合も会社によって違うんでしょうね。
はい。社員:業務委託が8:2の会社もあれば2:8の会社もある。
美容師はわかりやすいですけど、他の仕事はどうですか?
同じだと思います。面接業務だけを請け負う業務委託とか。ウェブ集客だけを請け負う業務委託とか。
「この仕事の場所だけ貸してあげるよ」みたいな。
はい。
業務委託の人はリスクを背負うことになりますね。
もちろん。雇用のような保障はなくなるわけですから。スキルアップし続けないと仕事がなくなるかもしれない。
リスクを負った分収入が増えないと、誰もやりたがらないです。
スキルが高い人はどんどん収入が増えるけど、スキルがない人は稼げない。
そこを標準化したのが正社員ってことですよね。スキルがあってもなくても、そこそこの報酬で。
そうならざるを得ないでしょうね。新人の教育費を給与から天引きするわけにいかないから。その分みんなの給与を下げることになる。
正社員は30代半ばぐらいで給料が頭打ちになる気がします。
そうなると思います。これまでのような右肩上がりは不可能ですから。
雇用が保障される代わりに給料が増えないチームと、保障がない代わりにスキルさえあれば上限なく稼げるチームと。二極化していく。
どちらのチームに行くかを、一人ひとりが選ぶ時代になるでしょうね。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。