第135回 デジタル課税で変わるもの

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第135回「デジタル課税で変わるもの」


安田

デジタル課税の話を聞いてもいいですか?

久野

はい大丈夫です。あまり詳しくないですけど。

安田

利益が「出る・出ない」にかかわらず課税されると聞いたんですけど。何に対しての税金なんですか?

久野

現行の会社法ルールだと、工場やオフィスの拠点を持ってないと税徴収できないんです。

安田

そうなんですか。

久野

はい。基本的には。

安田

自宅で仕事するパターンだったら、どうなるんですか。

久野

その場合は自宅がオフィスじゃないですか。

安田

確かに。

久野

たとえばアメリカのIT会社で、日本にホームページがあって、そこで商売やってるケースとか。

安田

なるほど。そういう企業向けの課税ですか。

久野

そうです。

安田

オフィスを持たないノマド的なワーカーに向けた課税ではない?

久野

違います。ノマドでも日本で商売をやってれば、必ずどこかに住所登記されます。

安田

なるほど。登記があるかどうかってことですね。

久野

そうです。日本に工場やオフィスがなくても、今は商売できちゃうじゃないですか。

安田

ネット・ビジネスはそうですよね。

久野

ネットでクレジットカード決済すれば、登記しなくても商売できる。税金が安い国に登記して安い税金を納めて終わりになる。

安田

デジタル課税が導入されると、どうなるんですか。

久野

まず法人税を最低15%にする。

安田

どこで登記しても15%は税金がかかるよってことですね。

久野

はい。

安田

それは国同士の約束ってことですか。

久野

そうです。

安田

そこに加盟していない国に登記した場合は?

久野

売上に対して一定の税金をかける。それが国際的なルールになってくると思います。

安田

たとえばGoogleは日本には税金を払ってないんですか?

久野

払ってないですね。

安田

なんと!

久野

Amazonはよく言われますよね。日本でかなり利益を上げてるけど、日本にほとんど税金を払ってない。

安田

今後はAmazonやGoogleも売上に対して税金を払わないといけない?

久野

そういう流れです。

安田

Amazonで買い物をした時点で税金かかるとか。

久野

それがデジタル課税ですね。

安田

なるほど。

久野

いずれにしても巨大IT企業が中心です。

安田

じゃあ小さな会社は関係ない?

久野

今のところ対象になってるのは数百社で、Netflixとかもそうですね。誰かが買った瞬間に税金をかけるという仕組み。ガソリン税みたいなもんです。

安田

でもAmazonって日本に物流拠点がありますよね。

久野

あります。なので今回対象になっているのは無形のサービス。たとえばAmazon MusicとかAmazon Primeとか。

安田

なるほど。物が動かないサービスですね。Facebook広告は?

久野

Facebookも対象になります。

安田

日本で誰かが広告費を出したら課税される?

久野

まだ明確に決まっていない部分もありますけど。基本的には売上に対して税金をかけていくルールです。

安田

ネット企業が対象だからデジタル課税という名前なんですか。

久野

そうでしょうね。ただ、どちらかといえば「もうけ過ぎてる会社に対して課税する」という概念だと思います。

安田

「無国籍企業に対する課税」みたいなイメージですけど。

久野

そこはたぶん国際的な法人税の統一でやると思う。それにプラスして課税するって感じですね。

安田

今までは「儲けてるのに払ってなかった」ということですね。

久野

これまでは利益に対する課税だったので。ざっくり言うと「売上から経費を引いたもの」に税金がかかってた。

安田

経費を使いまくって払わずに済ませてきたと。

久野

そうです。ほとんど払ってない。

安田

実際すごい経費もかかるんでしょうけど。NetflixとかAmazonとか。最初はずっと赤字でしたし。

久野

そうですね。でも巨大企業って再投資し続けるじゃないですか。それでどんどんでかくなっていく。

安田

そんなイメージですね。

久野

巨大なお金を動かしながら全部再投資に回す。それだと国にまったくお金が落ちていかない。

安田

確かに。

久野

なので大きくなった数百社に対して「もう、とんでもなく稼いでるんだから税金払え」ってことだと思う。

安田

つまりデジタル課税はGAFAみたいな巨大企業に対する課税ってことですね。われわれ中小企業には関係ない。

久野

関係ないです。

安田

YouTuberが税金を払ってないとか、そういう話じゃないと。

久野

そういう話じゃないです。

安田

巨大企業の話なんですね。

久野

巨大企業に歯止めをかけるということを、国家は考えてるんじゃないでしょうか。

安田

全部投資に回されたら税金を取れなくなるから。

久野

サブスクなので、後から利益上がることは分かってるし。絶対つぶれない構造で拡大し続けてるわけです。

安田

利益を出さなくても株主は文句言わないんでしょうか。

久野

利益を出さずに株価を上げて行けたらいいわけで。

安田

なるほど。利益への課税には限界があるってことですね。

久野

そういうことです。

安田

ソフトバンクも1兆円赤字だしたから税金0円になって。ゼロはないだろうって気がします。

久野

税金を取られまくってる会社員から見たら、かなり不公平です。

安田

不公平すぎますよ。あんなにCMやってて税金ゼロだなんて。

久野

社労士からすると、社会保険料を払ってるところだけは評価できます(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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