第136回 淘汰は進むよどこまでも

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第136回「淘汰は進むよどこまでも」


安田

雇用調整助成金ですが、また延長されるんでしょうか?

久野

はい。年内は継続すると言ってます。

安田

去年も年末で終わりと言われてて。

久野

そうでしたね。

安田

「今回は絶対に終わるぞ」って言われてたのに、あっさり延長されて。

久野

延長せざるを得ないんですよ。

安田

助成金が終わったら、整理解雇する会社が出ますよね。

久野

10月から最低賃金を上げるじゃないですか。あれの影響も考えてだと思う。

安田

それがなければ延長はしてなかったってことですか。

久野

そうですね。最優先の課題は最低賃金を上げること。そのための雇調金だと感じます。

安田

私は「終わる終わる詐欺」じゃないかと思ってます。永久に出るんじゃないかと。

久野

そもそも雇調金は常時ある制度なんです。要件が厳しくなったりするだけで。

安田

通常でも70%ぐらいは出るんでしたっけ?

久野

はい。今は9割ぐらい出ます。

安田

中小企業は100%じゃないんですか?

久野

100%支給が残っているのは一部の地域だけですね。原則的には10分の9です。

安田

それもどこかで終わると。

久野

間違いないですね。雇調金自体はずっとあるんですけど、金額が減っていく。

安田

そうなると解雇も増えますよね。

久野

コロナ特例がなくなった瞬間に、条件はかなり厳しくなると思いますので。

安田

どれぐらい厳しくなるんですか。

久野

金額も減るし、休みも計画的に取らなきゃいけなくなる。今までみたいに「明日来ないから助成金申請します」というわけにはいかない。

安田

助成金で延命してた会社がもたなくなるってことですね。それでもコロナ特例は終わると。

久野

さすがに年内で終わらせるんじゃないですか。菅さんは11月にワクチンが行き届くと言ってるので、これに合わせて終える感じ。

安田

菅さんが言ってることって実現したためしがないです。

久野

今の部分はカットでお願いします(笑)

安田

まあオリンピックは実現しましたからね(笑)

久野

あれは菅さん決めたことじゃないですけど。

安田

確かにどこかのタイミングでワクチンは行き届きますよね。永久に行き渡らないってことはないので。

久野

はい。

安田

それに合わせて助成金も終わっていくと。

久野

終わらせないと財源的にきついです。これって正常な状態ではないですから。

安田

ずっと続いたら国がもたないですよね。

久野

絶対無理でしょうね。ただ、こっちを先に切っちゃうとメディアに叩かれるので。政策的にはやっぱりワクチンを打った後に終わらせたい。

安田

それが年末だと。

久野

年末というのがすごく妥当な線だと私は思います。

安田

じゃあ年末には、延命してた企業さんでの整理解雇が始まる?

久野

コロナ融資の返済もそろそろ始まるんです。

安田

据置期間は1年でしたもんね。

久野

コロナワクチンが終わったタイミングで、けっこう厳しい政策を実行してくると思います。

安田

中小企業は生き残れますかね。

久野

そこで残れる企業だけが残るという感じになっていく。

安田

コロナ融資は返ってこなくなりますけど。そこも織り込み済みってことですか。

久野

銀行は織り込んでいるでしょうね。国の補償が付いてるので。

安田

貸し倒れになったとしても、生産性の低い会社は退場してもらうと。

久野

最低賃金の政策にその意思が表れています。そこだけは強気に空気を読まなかったですよね、珍しく。

安田

確かにそうですね。けっこう反発はありましたけど強引でしたね。

久野

はい。

安田

中小企業の社長やコンビニオーナーは困ってますよ。働いてる人は大歓迎なんでしょうか。

久野

働く人は歓迎だと思います。

安田

そうですよね。

久野

だけどメディアが煽るわけです。最低賃金を上げる→企業の人件費がかさむ→厳しい会社から人があぶれ出す→失業者が増える。という論調で。

安田

失業者は増えますか?

久野

私は雇用吸収できると思います。業務効率化されたとはいえ人は不足してるので。

安田

低スキルの人でも?

久野

人手という供給が絶対的に不足してますから。普通に考えれば吸収できる。

安田

ホントですか?例えば久野さんは採用しますか。呼びかけても返事しない人とか。

久野

それは採らないでしょうね(笑)

安田

でしょ。

久野

だけど安田さんのいうような「仕事ができない人」ばかりじゃないです。できる人もいます。

安田

できる人でも給料は安かったと。

久野

はい。だから国が主導して上げようとしてるわけで。

安田

それに耐えられない会社は潰れてもいいと。

久野

そういうことですね。

安田

値上げができない会社は潰れるでしょうね。

久野

だけどできないんです。みんなが一気に値上げするわけじゃないので。

安田

値上げしたところにはお客さんが来なくなる?

久野

はい。そこで淘汰されてしまいます。

安田

みんなが値上げするまで耐えられるかどうかですね。

久野

そこまで持ちこたえるキャッシュがあるかどうか。

安田

特別融資でサポートして乗り越えさせるとか。

久野

難しいでしょうね。最低賃金が30円上がるタイミングで「うちは300円上げるぞ」という会社が出てきますから。一気に周りが振り落とされる。

安田

どうやっても淘汰は起こると。

久野

企業というのは必ず淘汰が進むんです。

安田

国としてもこのタイミングで淘汰したい。

久野

はい。賃金が安いところは淘汰したい。それが本音だと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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