天下のPanasonicさんで、持ち帰り残業を苦に自殺された方がいて。
はい。
そもそも残業なのかどうかっていう。自発的にやったとしても残業になるんですか。
現在の法律では、やっぱり残業になるでしょうね。
「いやいや、本人が勝手に頑張ったんだよ」っていう会社の意見も分からなくもないですけど。
もう時代が変わってしまったんですよ。
ということは、会社としてはそんなに頑張ってほしくなくても、本人が「成果上げるためにやんなくちゃいけない」って家でガンガン働きまくったら残業になる。
なります。
会社にいてタイムカードをつけてたら残業だとは思うんですけど。
それは確実に残業ですね。
タイムカードもつけずに家で勝手に仕事してても、やっぱり残業になるってことですか。
難しいんですけど。基本的に「指揮命令があったかどうか」ってとこだと思います。
なかったらしいですよ。これをやれっていう命令は。だけど成果は求められるので、「これだけの成果あげろ」っていうのは、もう指揮命令に近いってことですか。
黙示の指揮命令ですね。
なるほど。成果をあげるためにやらざるを得なかったらば、これはもう残業になると。
そうです。
たとえば営業だったら目標があるじゃないですか。
はい。
でもパフォーマンスって人によって違いますよね。残業しなくても達成する人もいれば、家に帰ってコツコツやらないと達成できない人もいます。
そうですね。
「この数字を達成しろ」って言われたら、パフォーマンスの低い人はやらざるを得ない。
まず家でやることは禁止しなきゃいけないです。
家で仕事しちゃいけない。
そうです。「仕事を家に持って帰れた」ってところが問題になってるので。
家で自分のパソコンで提案書をつくるとか、業界知識を得るためにネット検索して調べるとか。いくらでもやりようあると思うんですけど。
そうですね。
それすら「やるな」ってことでしょうか。
「持ち帰りが禁止されてる」「会社のデータにアクセスできない」ってところが基本です。
なるほど。まずはそこに手を打っておくと。
あとは大多数がノルマをクリアできてること。
普通の人は終業時間内に仕事が終わるってことですか。
そういう状況が大事なんじゃないですか。
でも営業みたいな仕事ってかなり能力の差が出ますよ。
決められたルールの中で能力を出せないなら、その会社ではやってけない仕組みになってるべきです。
とはいえ解雇することもできないし。目標3000万だけど300万しか売れませんでしたって人は解雇できるんですか。
それだけでは出来ませんね。
ですよね。だけど本人が努力したら残業になってしまう。
時間外であれば残業になります。
売れない営業マンを雇っちゃったら「赤字覚悟で給料を払い続けろ」ってことですか。
本人がトレーニングや自己研さんをやるのは、労働時間じゃないです。
トレーニングは仕事ではない?
基本的にはトレーニングは労働時間じゃないです。ただ今回の場合は長期間にわたって夜中にメールしてたので。
つまり仕事をしてたってことですか。
そういうのが分かっていたにもかかわらず放っておいた。ちゃんと管理されてないことに関しては、会社の責任もあるんじゃないかと思います。
見て見ぬふりをしたってことですか。
要は「この時間で終わらない」ってことを会社は認識してたんだと思います。
なるほど。
自己研さんだったら何とでも言えるじゃないですか。本当にやってたかどうかも分からないので。
それで残業手当がもらえるなら言いたい放題ですよ。
ただ今回は「会社が謝った」ってところから逆算すると、おそらく自己研さんを超えて仕事を持ち帰ってることを、会社も把握してたんじゃないかと思います。
能力って人によって違いますからね。会社が決めたやり方で、全員が同じパフォーマンスってあり得ないので。
そうでしょうね。
パフォーマンスを発揮できない人にも、自己研さんはいいけど、業績上げるための作業はやらせちゃいけないってことですよね。
働き方改革っていうのは冷たい改革でして。ひと昔前は、自分が足りないなと思えばこそっと人より長く働いたり、家で準備して翌朝ロケットスタートが切れたんです。
今はそれをやっちゃいけない。
そういうのが全部禁止にされちゃったので。フライングができない状態です。
できない人はできないままってことですか。
そうなんです。だから本当に能力の高い人しか活躍できない。それが働き方改革の隠れた問題なんです。
なぜこんな法案ができちゃったんですか。
会社にも問題があるんですよ。安さを求めてすごい残業をさせたり。とにかく「長時間労働で何とかする」っていうスキームは禁止にしようと。
これからは営業マンが家で資料を作っても残業になると。
内容次第だとは思うんですけど。営業で提案書をつくるのは、ちょっと認定されづらいかもしれないですね。
それはどうして。
会社で提供してるものがあるはずなので。
あったとしても自分で工夫してもっといい提案書をつくるでしょ。
そんな人いない気がします。
いないですか?昔いっぱいいましたけど。
今はあまりいないと思います。
資料は終業時間中につくって、会社を出たらもう仕事は終了と。
そうじゃないですか。その部署がつくった資料を持っていくのが営業って感じ。
それじゃ売れないじゃないですか。
それでも売れるようにしなきゃいけない。
渡された資料を「持ってきました」ってだけで売れたら、営業マンいらない(笑)
それも含めてビジネスモデルになっちゃったのが、働き方改革なんです。
昔は営業時間中に企画書つくってたら怒られましたけど。
「足で稼げ」とか言われて(笑)
今はオフィスの中で昼からダラダラ企画書をつくっていてもいい?
ダラダラはダメです。一心不乱に資料をつくり一発でお客さんを仕留める。そういう人しか評価されない。ある意味冷たい時代なんです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。